旧下野煉瓦窯壁面における塩類析出の空間分布および季節変化に与える環境要因(<特集>地形プロセスにおけるロックコントロール)

概要

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塩類はその種類に応じて析出の空間分布が異なるとともに,その空間分布が季節変化する.このことは,いつどこで塩類風化が起こるか決定する重要な要因となる.栃木県野木町にある国指定重要文化財の下野煉瓦窯は,平面が正十六角形の二階建て煉瓦造りであり,塩類の析出特性とそれによる煉瓦の劣化を調査するのに適した建造物である.1階および2階の南側内壁を調査対象とし,壁面から落下した塩の析出物と煉瓦片の重量を毎月測定し,X線粉末回折分析により塩類鉱物を同定した.また,各壁面近傍の温度と相対湿度も毎月計測した.崩落した塩および煉瓦片の重量は春先から夏の終わりにかけて多く,このことは塩類鉱物の同定の際に石英が混入していたこととも対応する.2階の壁面からの塩および煉瓦片崩落物の重量は1階のそれよりも多い.2階の壁面では,硫酸マグネシウムが優勢的に析出し,湿潤な時期ではエプソマイト(MgSO_4・7H_2O)が,また乾燥する時期ではヘキサハイドライト(MgSO_4・6H_2O)が出現する.テナルダイトは1階の壁面で多く観察され,その分布は冷涼で乾燥する時期で広く,温暖で高湿の時期で狭い.石膏(CaSO_4・2H_2O)は,温暖で高湿の時期に1階の壁面下部に析出する.テナルダイト(Na_2SO_4)と石膏の分布域の中間付近では,シンジェナイト(CaSO_4・K_2SO_4・H_2O)の析出がみられ,冷涼で乾燥する時期よりも温暖で高湿の時期に広くみられた.この煉瓦窯で観察された析出塩類の季節変化は塩の溶解度および平衡相対湿度(ERH)の温度依存性に対応する.また,煉瓦片の生成には,加湿期における塩類の潮解およびヘキサハイドライトとエプソマイトの相変化が関係していることが示唆される.
日本地形学連合の論文
2002-03-25

旧下野煉瓦窯壁面における塩類析出の空間分布および季節変化に与える環境要因(<特集>地形プロセスにおけるロックコントロール)

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