タマナギンウワバおよびその近似種(ヤガ科)の生態に関する研究 : 第4報 タマナギンウワバおよびその近似種のさなぎの色に及ぼす温度の影響
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概要
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タマナギンウワバAutographa nigrisigna WALKERのさなぎの色は幼虫期の温度によって変化し, 低温20℃以下で全体黒色, 高温30℃で全体黄かっ色となる。このようなさなぎの色が, 幼虫のどの時期に決定されるかを知るために行なった一連の実験と, 温度感応のしくみを探索した他の一実験の結果を述べる。1)タマナギンウワバのさなぎの色の決定に関与する環境温度は, 幼虫の中期(3〜4令)以後より, 蛹化直後, さなぎの表皮が硬化するまでの感受される。そしてこの時期以前の温度は無関係である。2)低温18℃および高温30℃の温度条件を発育期の途中で転換した場合, 終令(5令)起およびそれ以前における温度変更区で得られたさなぎの色は, 両温度条件とも変更後の温度によって強く支配される。3)終令のいろいろな時期に温度を転換した場合では, 低温度の高温は, 高温後の低温よりもよく強く変更前の温度の影響を消去した。またこれら2通りの区で得られた中間型さなぎには色調の差がみられ, 低温後高温区のそれは中間型I, 高温後低温区のそれは全部中間型IIおよびIIIであった。4)羽化したタマナギンウワバ成虫の形態や色彩については, 低温条件下で得られる黒色型さなぎからの個体と, 高温条件下で得られる黄かっ色型さなぎから羽化したそれとの間に特に差異を認めることができなかった。5)前蛹になったときに高温から低温に変更し, かつそのときに第2,第3腹節間を結紮しておくと, 得られたさなぎの表皮(旧皮は脱皮できないため人工的に除去する)は結紮部の前方のみが黒化した。同様に低温から高温に入れかえたときでは得られたさなぎの表皮の色は結紮の前後方部とも黄かっ色を呈し, 全く黒斑の形成を認めることができなかった。これらの結果から, 幼虫体の第2腹節より前方に低温感応の中枢があって結紮した場合には体後部への黒色化因子伝達が阻止されるのであろうと考えた。低温から高温に移した場合では, 温度変更前すなわち結紮の前, すでに体の前後部とも黒化のための反応が進行していたと考えられるから, 結紮後の高温は, それぞれの体部位において直接この反応の進行を阻止したのであろう。6)キンウワバ類14種の幼虫を15°〜30℃の種々の温度で飼育してさなぎの色をしらべたところ, 種間に程度の差はあるが, タマナギンウワバと共通の温度感応が認められた。すなわち低温は表皮の黒化を強め, 高温はその淡色化を誘起する。
- 1964-09-25
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