疫学部門
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概要
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当部門は大学院学科目「生体機能制御学」を担当する教室で, 神経内分泌学を中心とした生理学的研究を行っている。生体の個体としての機能とその制御機構をホルモンを対象として研究を行う。I.成長ホルモンの分泌調節機構 1)成長ホルモンの分泌リズム 下垂体ホルモンの分泌は視床下部ホルモンによる調節をうけ, さらに上位中枢からの影響下にある。また, ホルモン分泌には生物時計に裏打ちされた日内リズムに加えて超日リズムがあり, 生体の恒常性の維持に重要であると考えられる。ホルモン分泌における超日リズムの発現機構と意義については不明な点が多く, そのメカニズムの中枢については解明されていない。この超日リズムの発現機構を解明することを目的として成長ホルモンについて研究を行ってきた。成長ホルモンの分泌リズムの形成に中心的役割を担っているソマトスタチン(成長ホルモンの分泌を抑制する向下垂体性視床下部ホルモン)の分泌あるいはソマトスタチン細胞の活動に周期性を与えるメカニズムとして, アンドロゲンによる視床下部機能修飾作用が重要であり, このアンドロゲン感受性機構の解明に取り組んできた。アンドロゲンは数時間以内に視床下部の状態を雌から雄に変化させ, 成長ホルモンの分泌パターンを雄化することがわかった。また, アンドロゲンの脳内微量投与実験によって, アンドロゲンが作用して成長ホルモン分泌を雄化する作用点は視索前野にあることが判明した。2)成長ホルモンのオートフィードバック機構 成長ホルモンが視床下部に作用して自己の分泌を制御する自己分泌調節機構(autofeedback)がある。成長ホルモンの作用部位を検討し, 視床下部弓状核細胞が成長ホルモンを感受する部位として重要であることを見いだした。成長ホルモンの視床下部に対する作用は, 肝臓をはじめとする末梢組織に対するものと異なり, 神経修飾作用によって視床下部の状態を変える可能性が考えられる。現在, 成長ホルモンの視床下部作用について, 細胞内シグナル伝達機構を検討中である。リズム形成とフィードバック系が下垂体ホルモン分泌の中軸であり, この機構を解明し, かつこの機構を解明し, この機構に影響する因子を明らかにしていく。3)成長ホルモン受容体を介する細胞内シグナル伝達に関する研究 成長ホルモン受容体はサイトカイン受容体ファミリーに属し, 培養細胞や肝臓を使った実験からJAK2-STAT系を駆動してシグナルを伝達することがわかっている。サイトカインはその後ネガティブフィードバックとしてCIS(SOCS)を活性化する。成長ホルモンの視床下部におけるSTAT, MAPK, SHCなどのタンパク質の活性化とCISの発現誘導を調べた。その結果, 肝臓と視床下部では成長ホルモンによるシグナル伝達に関与するタンパク質が異なっていることが示唆された。今後, さらに他のタンパク質の活性化や遺伝子の転写誘導を調べ, 視床下部細胞における成長ホルモンのシグナル伝達系を明らかにしていく。II. Corticotropin-releasing factor (CRF)受容体発現調節 CRFはストレスにおける下垂体-副腎系, 自律神経系の賦活化に重要な働きをもつ視床下部ホルモンである。急性ストレスはCRFの受容体(CRFR-1)の視床下部室傍核での発現を著明に増加させる。シナプス伝達効率は受容体の数により変化するため, 室傍核でのCRFR-1のこのような変化は生体のストレスへの順応に重要な働きを持つことが推測される。そこでin vivo, in vitroの実験系を用いて視床下部でのCRFR-1の発現調節機構を検討した。ノルアドレナリン, アセチルコリン等の神経伝達が直接視床下部神経細胞のCRF-R1遺伝子発現を促進すること, 細胞内ではcAMPがCRF-R1遺伝子発現を促進することを明らかとし, ストレスによるCRF-R1 mRNA発現の増加におけるこれらの物質の関与が示唆された。さらに, CRFは直接視床下部室傍核に作用してCRFR-1 mRNAの発現を増加させることを証明し, 視床下部ではCRF受容体遺伝子発現がそのリガンドにより調節されている(homologous receptor regulation)ことが明らかとなった。III.一酸化窒素の中枢神経内での作用 神経型一酸化窒素(NO)合成酵素(nNOS)は中枢神経内に広く分布し, NOは神経伝達物質として作用していると考えられている。NOの中枢神経内での作用部位を明らかにする目的で, NO供与体であるNOC-18投与後のc-fos遺伝子の発現を解析し, 更にnNOSの酵素活性を反映するNADPH-diaphorase染色を行った。その結果, c-fos mRNAは, 心血管系・自律神経系の調節に重要な働きをもつ部位(前腹側視床下部, 室傍核, 視神経上核, 青斑核, 終野, 孤束核, 腹外側延髄)のみならず, 神経内分泌反応(室傍核, 視神経上核)や情動(扁桃中心核)に関与する部位にも発現しており, NOが広範な中枢作用をもつことが示唆された。ほとんどの部位ではc-fos mRNAの発現とほぼ同じかそれに接してNADPH-diaphorase陽性細胞あるいは神経終末が見られた。したがって, 内因性NOが神経伝達物質や調節物質として働いていると考えれた。しかし, c-fosの発現とNADPH-d染色が一致しない部位も一部認められ, NOは間接的にこれらの部位での神経活動を調節していることが考えられた。IV.甲状腺乳頭癌の原因遺伝子 甲状腺乳頭癌では一部の症例で, 神経系の細胞の分化と維持に重要な働きをしている遺伝子c-retおよびtrkAのチロシンキナーゼをコードする領域の5′側に他の遺伝子が融合していることが報告されている。しかし, 癌化の全体像についは未だ明らかではない。我々は甲状腺乳頭癌で新規遺伝子ELKSの5′末端側がc-retの3′側部分と結合した融合遺伝子が存在することを証明した。その後, ELKSはalternative splicingによって少なくとも5種類のmRNAを発現すること, 780アミノ酸から1116アミノ酸のタンパク質をコードしていることが示唆された。融合したタンパク質のどのような性質が癌化に働くのかを更に検討するために, 3種類のELKSとc-retとの融合タンパク質をin vitroで合成し, チロシン残基の自己リン酸化について検討した。その結果いずれの融合タンパク質も構成的にチロシン残基がリン酸化され, c-retのキナーゼ活性が恒常的に活性化されることが示唆された。
- 2001-03-25
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