価値形態論で解明すべきこと : 岩井克人『貨幣論』批判
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
マルクスは『資本論』において価値形態論を展開し,貨幣の必然性を論証したのであるが,それを論証するための価値形態論においては,マルクスにあっては商品の価値実体としての抽象的人間労働という人間労働一般の概念が不可欠のカギであり,基底概念であった。これに対し岩井克人はその著『貨幣論』において,マルクスの価値形態論に従いつつ貨幣の必然性の論理を吟味して,そこには抽象的人間労働の概念は不要であるとしている。そして,彼は最終的にマルクス経済学における労働価値論を葬りさるのである。マルクスの価値形態論の特徴は,商品の価値実体とその表現形態との弁証法的上向法による論理展開によって “貨幣生成”の必然性を論証するところの“文質彬彬”にあるのであるが,岩井のそれは,価値実体を抜きにした形態並列の「宙づり」的循環論法による“貨幣存在”の論証にある。両者の貨幣論証は中身も方法も異なるのである。さらに,岩井の論証法は,マルクスの論証法とはまったく異質なものであり,科学的論証法とは決して言えないものなのである。にもかかわらず,岩井はその「宙づり」的循環論法こそが貨幣の謎にせまる唯一の方法であるとして,マルクスの彬彬なる弁証法的価値形態論を骨抜きにしてしまう。岩井は,マルクスの価値形態論に沿った形をとって岩井流循環論法を展開し,最終的に労働価値論を葬りさっているために,その方法は一見,マルクスの価値形態論に対する内在的な批判のように見えるが,岩井の価値形態の論理はマルクスのそれと似て非なるものなのである。岩井の論理には,まったく形態的移行の弁証法的論理はなく,単にマルクスが弁証法的上向法の論理を駆使して展開した価値形態をなんの脈絡もな〈並列に並べ,それら異なる価値形態を相互に前提しあうという岩井流「宙づり」的循環論法を繰り返す。その論法の結末において,岩井は突如として外部から貨幣を導入し,貨幣とは「無から有が生まれたモノ」と宣言して,労働価値論を葬りさったのである。Marx unfolded the theory of form of value in his "Capital", and he proved the necessity of money there. When he proved it on the theory of form of value, he used the concept of abstract human labour as general human labour which is the substance of value of commodities. It was necessary and basic concept for the theory. Katsuhito Iwai examines the logic of necessity of money parallel to Marx's logic of form of value in his "The theory of Money", and he throws away the concept of abstract human labour. And he finally throws away the theory of value of labour. The characteristic of Marx's theory of form of value is in harmony between substance and forms of value, and method of dialectic ascent. By the method he proved "the necessity of money". But Iwai proves "the existence of money" by the method of circular argument hanging in midair, arranging forms in a row without substance of value. Both the methods and the contents of proving money are different. Iwai's method of proving money, that is circular argument, is not scientific method at all. Nevertheless he says that the method of cicular argument hanging in midair is the only one to prove the mystery of money. And he emasculates the theory of form of value which is in harmony between substance and forms of value. Iwai finally says, "What came from nothing is money. Existence came form nothing." He does not know the proverb that "Nothing Comes from nothing."
- 上越教育大学の論文
著者
関連論文
- 商品価格の二重性と市場価格の形成 : 池上惇著『経済学への招待』における事例の図式化
- 市場価格形成の論理 : 吹春俊隆著『経済学入門』批判
- 新潟県における産業空洞化の特質
- 人間労働の原理 : 初等教育教員のための経済学
- 貨幣の機能と信用 : 岩井克人『貨幣論』批判
- 価値形態論で解明すべきこと : 岩井克人『貨幣論』批判
- 「利潤率の傾向的低下の法則」における理論的矛盾
- "貨幣の資本への転化"における歴史論理性と剰余価値の源泉について : 東ドイツと日本のマルクス経済学教科書の共通性と相違点
- 上越市の工業振興策の展開
- 化石人類における道具の発達に関する経済学的考察 : 人間的労働の原理