ケインズ・ケインズ派・マネタリスト (永島清教授還暦記念号)
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概要
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1974年以後,第1次オイル・ショックの大波をかぶった先進資本主義諸国が,失業の増加とインフレーションの加速化に悩まされ,各国政策当局は拡張政策を安定化政策へと転換する動きを見せている。そして,かかる政策的転換は,ただ単に政治的・経済的両側面における目標の転換に止まらず,経済学の潮流にも大きな転換を呼び起こしつつある。ケインズ『一般理論』によって基礎を与えられたケインズ経済学は,今日では,(ケインズの後継者なかんずく新古典派的総合の立場に立つケインジアンによって再構成された)ケインズ派経済学にとって代わられ,そして,それが,金融政策を無効として,財政政策偏重のケインズ政策を導いて来たため,ケンズ政策が財政の肥大化とインフレーションの原因を作ったと,マネタリストによって批判されているのである。ケィンズ革命に対するマネタリスト反革命はインフレーション問題をめぐって展開されているが,マネタリストの批判は,外見的にはケインズと古典派との両理論の総合という特徴をもっているケインズ派経済学に向けられながらも,実質的にはケインズ『一般理論』において否定された古典派経済学の復活を主張しているもののようである。非自発的失業が発生する原因を流動性選好関数の利子無限弾力性と貯蓄・投資両関数の利子非弾力性に求めるケインズ派経済学にケインズ革命の本質を認めるということはもとより誤りであって,ケインズ革命に対するマネタリスト反革命は,金融政策の重要性を主張する点ではむしろケインズ自身の経済学と共通点をもつのである。しかし,マネタリストの場合は,雇用理論あるいは雇用政策としてよりも,物価理論ないしは物価政策としての金融重視の立場に立っているのである。そして,マネタリストは,ケインズ派の土台となっていた古典派経済学に対するよりも,その土台の上に接ぎ木されたケインズの有効需要の原理を倭小化したIS・LM図式を退けようとしているのである。したがって,マネタリスト反革命は,ケインズ派経済学に対するよりも,実質的には,ケインズ『一般理論』に対立する主張を含んでいるのである。そこで,本稿では,アメリカにおける強力な政治力が古典派経済学あるいはセイ法則を復活せしめるような経済環境を整備しうるかどうかはともかく・ケインズ・ケインズ派・マネタリストの経済モデルを比較検討して,それぞれの理論的特徴と,財政および金融に関する政策的効果についての認識の差異がいかにして生ずるかという点を明らかにしたいと思う。
- 大阪府立大学の論文
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