黒麹菌のナリンジン分解酵素の生成機作(II)
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概要
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黒麹菌GrM-03株のナリンジナーゼは,ラムノースによって誘導生成されることが推定された.酵素の誘導生成については, 古くWortmann^<(4)>が, ある種の細菌が澱粉を炭素源とした場合にのみ, アミラーゼを生成することを報告して以来, 同様の現象は, その後多くの研究者^<(5)〜(11)>によって観察された.またPollockのペニシリナーゼ生成に関する研究^<(12>〜(14)>はこの種の実験としてはあまりにも有名である.その後誘導酵素の生成機作については多くの事実が解明されている.供試菌のナリンジナーゼ生成を, これら実験結果のみにもとづいて考察すると, この酵素は, 単独の糖としてはラムノースによってのみ誘導生成され, 五炭糖のアラビノース, キシロースをはじめ, 六炭糖のマンノースあるいはマンニットなども酵素生成には効果なく, ラムノースと同じくメチルペントースであるフコースにもその有効性を見出すことはできなかった.しかし, 各種の天然配糖体にはその誘導効果が認められたが, それらの天然に存在するラムノースはL-ラムノースとされているので, これらの糖の光学異性体についてさらに検討を加えれば, あるいは興味ある新事実がさらに提供されることも推察された.一般にラムノースの主要なる供給源はナリンジンとされているが, 現在の実験段階では供試菌のナリンジナーゼ, ヘスペリジナーゼ生成に有効な単糖類としては, ラムノース以外にはもとめられないものと考えている.次に菌体の増殖と酵素生成の期間的関係を考察するに, ナリンジンあるいはラムノース添加培地での菌体の増殖とナリンジナーゼ分泌とは比例的関連はなく, むしろ菌体の増殖末期以降に分泌が認められる.たとえば, 静置培養において観察した結果では, 菌蓋がほぼ完全に増殖したと推定される時期では, 菌体内には相当量の酵素生成は認められるが, 培養液には未だ分泌されず, 菌体の生育がほぼ停止したと推定される時期から酵素の形成が盛んになるとともに, 菌体外への分泌量も増大する.よって洗條細胞を用いて, ラムノースと酵素生成の関係をさらに詳細に検討した結果, ラムノース適応の洗條細胞を, 単に燐酸緩衝液のみで振盪することにより両酵素の生成が認められ, この場合酵素分泌は誘導期なく振盪と同時に開始されることが知られた.炭素源としてのグルコースのみでラムノースを含まない培地から得た未適応洗條細胞は, これをラムノースを含む溶液で振盪すると, 若干の誘導期を経て酵素の分泌は開始される.いずれの場合も酵素分泌量およびこれが最大に達するに要する時間は大同小異であり, 一定量の酵素が集積して, もはや分泌が停止されたかの如く認められる時期にラムノースを追加すれば, 再び酵素の分泌が開始される.またナリンジナーゼの住成はヘスペリジナーゼに比し, 時期的に早く, かつラムノースの微量でも可能であるが, ヘスペリジナーゼはさらにラムノースを増量してはじめてその生成が認められた.ラムノースの増加とともに両酵素生成は逐次増大するが, その増加率は, ナリンジナーゼよりもヘスペリジナーゼが大であり, 従ってラムノースが充分存在する場合には両酵素の生成比は, ほゞ1 : 1.5となるものと観察された.この事実はラムノースが両酵素生成を誘導し, 一定量以上になると一部はエネルギー源となり, 殊にヘスペリジナーゼの場合の如く, さらに酵素生成を助長するものとの推察も可能である.試みに, ラムノースの一部をグルコースでおきかえた液で酵素生成を行わしめると, ナリンジナーゼはラムノースの一定量に対しグルコースの少ないほど, ヘスペリジナーゼは, これとは全く逆に, グルコースの多いほど生成は大である.すなわち, ヘスペリジナーゼに関してはグルコースもラムノース共存では酵素生成を増大するが如くである.この事実は誘導酵素生成機作についての興味深い多くの問題点を示唆するものと考える.また配糖体の両酵素生成に及ぼす影響については, ナリンジナーゼとヘスペリジナーゼとではやゝ異なり, 前者の場合は配糖体におけるラムノシル-グルコサイドのアグリコンとの結合位置には関係なく, 配糖体の構成成分であるラムノースによる影響のみがうかゞわれるが, 後者の場合では配糖体成分のラムノースによるのではなく, ラムノシル-グルコサイド(ルチノース)によるか, または配糖体の構造がヘスペリジナーゼ生成に何らかの役割を果すと想像されることを示唆するが如き結果を示している.次に大豆粕の問題であるが, これに就いては, 供試した大豆粕が酵素生成を著るしく増大することを知り, その粉末あるいは抽出液を用いてさらに詳細に検討を加えた.培養基に添加した大豆粕抽出液についてナリンジナーゼの生成を観察するに水抽出液よりもアルカリまたは酸抽出液がすぐれているが, 後2者による酵素生成量の相異はほとんど認められない.実験に供試した大豆粕抽出液の分析
- 1971-02-20
著者
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