核型によるスギ科樹木の種の識別とその類縁関係(生産環境学科)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本研究は,わが国林業にとって極めて重要な樹種であるスギが含まれているスギ科樹木の林木育種に関する基礎的研究として核型分析,核小体形成部と核小体の分染,相対的DNA量の測定から種の識別,種の類縁等を明らかにして,今後の林木育種に関する有用な指針を得ようとしたものである。本論文の研究結果の概要は,次の通りである。I. 核型分析 (1) スギ科の染色体数は,樹種によって2n=20 (x=10),2n=22 (x=11),2n=66 (x=11)の3つに分けられた。2n=20はコウヤマキであり,2n=66はセコイアメスギ,残りの樹種はすべて2n=22であった。(2) スギ科の染色体数構成の特徴としては,中間付随体染色体,付随体染色体,二次狭窄染色体のいずれかを最低1対有することにあった。メタセコイアは中間付随体染色体を3対有しており,このことはこれまで報告されたことのない新知見であった。スギは中間付随体染色体1対と二次狭窄染色体の両方を合わせもっていた。コウヤマキは二次狭窄染色体を1対有しており,中間付随体染色体および付随体染色体は有していなかった。セコイアメスギ,コウヨウザン,ランダイスギは付随体染色体を1対有していた。残りのスギ科はすべて中間付随体染色体を1対有していた。(3) コウヤマキは染色体数が2n=20 (x=10)と異なっており,中間付随体あるいは付随体染色体のいずれも有せず,二次狭窄染色体を有することから,スギ科の中では特異な樹種と考えられた。したがって,核型からみるとコウヤマキはスギ科から独立させコウヤマキ科と分類すべきことが支持された。(4) コウヤマキを除くスギ科の樹種は,すべて中間付随体染色体か付随体染色体のいずれか一方を最低1対有していた。また,両タイプの染色体を合わせもつ樹種はなかった。また,この中間付随体染色体と付随体染色体の両タイプの染色体は形の上からみると,染色体の逆位によって生じたことが考えられた。(5) 染色体数,中間付随体染色体,付随体染色体,二次狭窄染色体の有無,染色体構成の長さのばらつきなど核型からみて,スギ科は6グループと4つのサブグループに分けられた。(6) スギ科の核型の特徴を明らかにするため供試したイチイ科のイチイ,カヤ,ナンヨウスギ科のブラジルアロウカリア,ヒノキ科のヒノキの染色体数は,それぞれ2n=24,22,26,22であることがわかった。また,イチイとブラジルアロウカリアは中間付随体染色体を,カヤとヒノキは二次狭窄染色体を有していた。II. 核小体形成部と核小体の分染 (1) これまで,スギ科を含めた球果植物で用いられることが少なかった染色体分染法の1つであるAg-I(硝酸銀-incubation)法の改良に努めた。その結果,核小体形成部を効率良く,しかも確実に分染する改良法として,引火法を応用した新たなカバーグラスの剥離法とフォイルゲン染色とAg-I法の二重染色法を開発した。また,球果植物での核小体形成部の分染は,これまでに成功例がなく,新しい試みであった。(2) 核小体形成部の位置は,核型分析の結果得られた中間付随体と付随体の狭窄および染色体腕上の二次狭窄であることが明らかにできた。また,核型分析で確認されたそれらの狭窄のすべてが核小体形成部として機能していることがわかった。(3) 核小体の最大個数は,常に核小体形成部の数に一致しており,核小体と核小体形成部は1対1の対応関係にあることが明らかになった。(4) 核小体と核小体形成部が1対1の対応で,しかも核小体形成部の機能的な抑制が生じていないことから,細胞分裂中期の染色体の観察なしに,間期核での核小体の最大個数から核小体形成部すなわち染色体の一次狭窄以外の狭窄の数が推定できることがわかった。このことは,従来からの染色体の観察による核型の認識ではなく,間期核の観察を利用した新しい核型の認識方法の1つと考えられた。III. 相対的DNA量について (1) 細胞あたりのDNA量は,6倍体のセコイアメスギが最も多く,次いでコウヤマキの順であった。(2) 細胞あたりのDNA量をゲノムあたりのDNA量に換算すると,コウヤマキが最も多かった。また,DNA量からみるとスギ科は4グループに分けて考えることができ,コウヤマキはDNA量からみてもスギ科とは有意に異なっていることが明らかになった。IV. 以上のような研究結果をもとに,核型を中心に核小体の最大個数,DNA量からみた種の識別,類縁について考察し,スギ科の林木育種に関する核型の利用と今後の課題について論議をくわえた。
- 1991-12-04
著者
関連論文
- 核型によるスギ科樹木の種の識別とその類縁関係(生産環境学科)
- 地域社会への影響評価を : 西表島リゾート施設に対する日本生態学会の要望書の特色
- 4 オキナワアナジャコ塚とマングローブ土壌(九州支部講演会(その2))
- 琉球諸島のスダジイの遺伝的多様性
- ギンゴウカン群落に関する研究 : V.虫害後の林相回復
- フクギの樹種特性に関する研究 (III) : 葉の外部形態とクロロフィル含量(林学科)
- 沖縄の海岸林に関する研究 (III) : 沖縄本島の海岸林(林学科)
- ビロウ林に関する研究 : (I) 座間味島ビロウ林の林分構造(林学科)
- ギンゴウカン群落に関する研究 : 第 3 報土壤型と根系(林学科)
- ギンゴウカン群落に関する研究 (II) : 土壌水分及び施肥条件の違いが初期生長に及ぼす影響(林学科)
- 沖縄の海岸林に関する研究 (2) : 西表島船浦湾の海岸林(林学科)
- マングローブ樹種の生長に関する予備実験 (II) : ヤエヤマヒルギ胎生種子の初期発育に及ぼす塩分と施肥の影響(林学科)
- マングローブ生態系の現状と課題(課題:熱帯・亜熱帯沿岸生態系の現状と課題 : 特にマングローブ地帯に着目して)