<論文>貴志川流域の民家の間取り形式に関する研究
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概要
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これまでの考察結果から,以下の貴志川流域の民家の特性を指摘することができる。1.貴志川流域でも中流から上流域では,地形や敷地条件に左右される傾向が強く,入口は平入りであるが必ずしも南入りではない。家屋規模は下流域の方がやや大きいが,全体に紀ノ川流域よりは小規模である。2.主屋は土間と床上部分から構成され,土間は特に左右の偏りがなく,左勝手,右勝手の両方の形態がみられる。本来は通り土間形式であるが,分割されているものが多く,土間隅にはイラズや物置,牛小屋が設けられている。土間より前面に張り出した牛小屋には「ねじや建て」と呼ばれる独特の構法がみられる。3.間取り形式は紀ノ川流域と同じ前座敷系列に属するが,貴志川でも中流から上流域や鞆渕川流域ではダイドコロが桁行き,梁行き方向に土間に張り出す間取り形式が主流を占めている。ダイドコロの拡張だけでなく,ナンドが分化される間取りが多くみられる。四間取りでは中部以北の流れとは異なり,座敷は1室で,ナンドが2室に分化し,裏側が3室構成となる間取り形式が一般的である。そのために,これらの地域では紀ノ川流域とは異なる,独自の間取り形式が発達したと推定される。4.住まい方の特性としては,座敷の閉鎖性とダイドコロの開放性があげられる。座敷は格式的な接客空間として,土間境の建具は日常は閉められたままで,隔絶した形で保たれている。他方,ダイドコロでは土間境は開放され,日常的な接客と家族生活の大半が集約した重層的な住まい方が展開されている。両室の住まい方は,相互に関連しながら確立されていったと推察される。地域的な特性としては,鞆渕川流域で,他地域ではみられない室名呼称と住まい方が確認された。裏側室が3室に分化した間取り形式では,裏側上手室の呼称は一般にオクナンドであるが,鞆渕川流域ではカイショと称されている。カイショは単なる就寝空間ではなく,裏座敷的な用途に用いられていた形跡がみうけられる。5.基本となる間取り形式に強く規定されながらも,近代以降は様々な改変がなされている。変容点で注目すべきは,土間の狭少化,床上化の流れである。前土間に様々な形で床が張り出していく流れがある。とりわけ,地域的な特徴と思われる床のみの,小規模な接客空間の確立が認められる。前土間の床上化の流れと,さらに奥土間の床上化,DK化により,ダイドコロでなされていた日常的な接客や食事行為が移行し,ダイドコロでの住まい方の改変がみられる。
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