<総合論文>イチゴ黒斑病菌の生成する宿主特異的毒素
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概要
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ある植物病原菌はなぜ特定の植物種(あるいは品種)しか侵すことができないか、という病害の特異性(宿主特異性あるいは選択性)の解明に関しては、現在も様々な病原菌とその宿主植物の組み合わせで広範で精力的な研究が続けられている。宿主選択性の決定は物質を介在して行われると概念的に理解されているが、実際の病原菌感染場面においては物質は異種生物間(病原菌と宿主植物)の複雑な相互作用中に生成・分泌されると考えられ、明快な選択性を示す物質の精製・同定には困難を伴う。その中で、一部の植物病原糸状菌の生成する宿主特異的毒素(host-specific あるいは host-selective toxin,以下HSTと略す)は明快な選択性を説明し得る好例である。植物病原糸状菌は培養中植物に毒性を示す多様な代謝産物を生成するが、その多くはいわゆる非特異的毒素であり、本来宿主でない植物(非宿主)に対しても毒性を発揮する。このような非特異的毒素と明確に区別するため、HSTは非特異的毒素以下の条件を具備すべきものと定義された。①宿主植物にだけ毒性を発揮する病原菌の代謝産物であり、②病原菌の毒素生成機能の有無と病原性の一致すること、③宿主品種の毒素耐性と病害抵抗性の序列の一致すること④病原菌感染によって誘起される宿主組織の生理・生化学的諸変化が毒素処理によって再現されること、の4項目であった。その後、⑤病原菌の病死発芽時の毒素放出、⑥放出毒による宿主植物への菌受容化誘導の2つの条件が補足され、当初の毒性の高さ・選択性への注目に加え、病原菌感染場面での役割に対する認識が強化され、病原菌の病原性発揮の第1義的決定因子としてのHSTを定義している。今日、HST生産菌であるとされている病原糸状菌は14例が知られている(Table 1).このうち半分にあたる7例がAlternaria alternata (Fries) Keissler に属しているが、本菌では残念ながら未だ完全世代は発見されておらず、現在集合種とされている。また、本種はこれら病原菌のみで形成されるわけではなく、圧倒的多数は植物病原菌ではなく、つまりどの植物に対しても寄生できない腐生菌(非病原性菌)としてひろく自然界に存在している。しかし本菌は、多数の分生胞子を形成するため空中飛散胞子も多く、植物体内への物理・生化学的侵入能力を備えており、植物の抵抗性が弱まった場合などでのいわゆる「日和見感染」を引き起こすことがしばしば観察される。また、一方では農産物の貯蔵病害を引き起こす糸状菌の主たるうちの1つである。本文では、このうちイチゴ黒班病とその生成するHSTであるAF毒素についての研究を紹介する。Occurrence of Alternaria black spot of strawberry was first reported on var.Morioka-16,Among varieties tested,var.Morioka-16 was found to be only one susceptible variety.The pathogen,however,showed pathogenicity on pear leaves which is susceptible to black spot of Japanese pear.The casual pathogen of black spot of strawberry,Alternaria alternata strawberry pathotype produced three host-specific toxins(HSts),which were chemically characterized,and named AF-toxin Ⅰ,Ⅱand Ⅲ,respectively.HSTs are considered as a primary determinant of pathogenicity,that is,interaction between the host plant and the pathogen.We here introduce briefly researchd on host-specific toxin focusing on AF-toxins.
- 岡山大学の論文
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