<巻頭言>学風の立つところ
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概要
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私共の学部は看護系大学のなかではまったくの後発校であることもあって,淡々と,気負わずに発足したのでしたが,"紀要"をめぐっては,何とも意気込みました。身のほどにあわせて最善をつくせばよいとは知りつつも,大学学部なのだからと,収載するにふさわしい論文について討議を重ね,名称にも新味を探るなどしたあげく,初年度の発行は見送ったのです。しかし,ようやくその時がきて,ここに名古屋市立大学看護学部紀要第1巻が誕生しました。学部内輪の単純な喜びをまずは記さずにはいられません。と同時に,ご高覧くださることを願ってこの紀要をお届けいたします関連の外部の皆様には,謹んでご批評を乞わせていただきます。研究誌としての"紀要"の価値は高くないと決めてかかる向きがあり,私共の論議にもそれが見え隠れすることがあったのですが,さて,どうでしょうか。私は,看護学文献を"さわって"きた若干の経験から,ここ2,30年の日本の看護学研究の進歩は,短期大学等の紀要をぬきにはありえなかったのではないかと思っています。ちょうどその間,私は看護学のキーワードの1つである生活行動援助を主題とした文献集を5年毎に編み,150を越える看護関係誌から文献を取り出し,いくつかの観点で分類をする作業をしたのですが,当時のいちばんの印象は,たとえどんなに小さくても確かな発見のある研究,あるいは引用頻度の高い論文はかなりの頻度で"紀要"にあるということでした。それらは概して,形にとらわれずに自由に書かれており,疑問のたて方がまっとうといいますか地に足が着いていて,もっぱらその解決のために研究という方法を採った必然性が明か,したがって結果の有用性がよく見える,そんな記憶があります。研究の進め方はいったいに素朴ではありました。ということができますのは,同じ時期に私は大規模学会の学会誌編集も手がけていまして,こちらには,申し分なく形の整った,どうかすると,手の込んだ仮説をもとにみごとに作り上げたといった感のある,しかしあまりせっぱつまったふうの勢いのない論文が載る傾向があり,暗に"紀要"と比べていたからです。この種の学会誌の論文が看護学のそればかりであるのに対し,"紀要"には看護学周辺の諸学領域の研究も発表されており,看護の入った諸領域共同研究もあって,全体として看護学の研究に奥行をもたせている,そうした違いも感じました。"紀要"には,看護学の研究ではないという理由で学会誌が退けた,とはいえ看護学の研究でもありそうな研究が載っていたのです。いま,研究のスタイルも論文のスタイルも整った看護学の世界は,学会誌への発表に非常な重きをおき,確かに"紀要"を軽くみるようになっています。しかし,"紀要"のあの"長所"に思い当たると,"紀要"の復権を考える行き方のあることに気づきます。学内誌である"紀要"には,私共がへんに構えることなく投稿できるよさがあり,そのことが,形よりも実質を問いかつ必要とする看護学のような専門にもたらす恵みは大きいのです。私共の紀要には,研究による発見ばかりでなく,トライアル・アンド・エラーののちの発見も,偶然の発見も発表することができます。同僚間査読のシステムはそれを支えるように働きます。私共の紀要には,看護学の論文ではない論文も載ります。看護学部のメンバーの仕事はすなわち看護学の収穫と考えるのもよし,看護を専門としない者がしたからこれは看護学の研究ではなく,看護の者がしたからそれは看護学の研究だといったナンセンスを皆で笑うのもよし,学部に活気が高まるでしょう。私共は"紀要"に関してだけはいささか気負って論議した結果,一見以前からある伝統的な,しかし出自は間違いなく私共の学部にある紀要をもつことになりました。この紀要に,名古屋市立大学看護学部の学風を立てよう,と私は呼ばわります。文字通り,風が立って欲しいのです。
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著者
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