唾液分泌とシグナルトランスダクション
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概要
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唾液腺は分泌顆粒を蓄えた腺房細胞と,唾液の輸送路を形成する導管細胞から構成される.腺房細胞の分泌顆粒はアミラーゼやムチンなどのタンパク質を含んでおり,これらを開口分泌によって腺腔内に放出する.唾液腺のタンパク質分泌は主にβアドレナリン受容体やVIP受容体の刺激を介したPKAの活性化によって調節されている.またムスカリン受容体刺激で起こるタンパク質分泌は主にPKCの活性化を介しており,この過程にCa2+はあまり関与しないと考えられている.さらに唾液腺ではイオンチャネルやトランスポーターの働きで水と電解質が分泌される.腺房部では血漿とよく似た電解質組成の原唾液が作られるが,導管細胞の働きでNaClが再吸収されて低張な唾液となって口腔内に分泌される.この水・電解質分泌は主にムスカリン受容体を介したIP3依存性のCa2+反応によって調節される.腺房細胞のムスカリン受容体を刺激すると,腺腔側から基底側へ広がるCa2+ウェーブが起こる.Ca2+オシレーションもしばしば起こるが,これは2秒程度の非常に短い周期で,しかも刺激が弱い場合にのみ観察される.さらに弱い刺激では,腺腔側に限局したCa2+パフ様の反応が観察される.このように腺房細胞の腺腔側でCa2+反応が起こりやすい理由の一つとして,腺腔側におけるIP3受容体の局在が考えられる.水・電解質分泌の過程では,まず腺腔側におけるCa2+反応によってCl-チャネルが開口し,さらにCa2+反応が基底側に達するとK+チャネルやNa+/K+/2Cl-共輸送体などが活性化する.この反応によって間質のCl-が腺房細胞を介して腺腔内へ移動し,その結果として生じるマイナス電位と浸透圧勾配を駆動力として,腺腔内にNa+と水が移動して原唾液が作られる.PKAはNa+/K+/2Cl-共輸送体やIP3受容体をリン酸化し,イオン輸送活性やCa2+反応の増強によって水・電解質分泌を亢進する.唾液分泌はこのようなcAMP系とCa2+系の協調した働きによって調節されている.
- 2006-04-01
著者
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谷村 明彦
北海道医療大学歯学部口腔生物学系薬理学分野
-
東城 庸介
北海道医療大学歯学部歯科薬理学講座
-
谷村 明彦
北海道医療大学歯学部歯科薬理学講座
-
東城 庸介
北海道医療大学歯学部 口腔生物学系 薬理学分野
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