日本のワインづくり赤ワインの製造におけるポリフェノールの挙動と役割
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概要
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高温多湿の気候のため,日本のブドウは欧米のそれよりも,ポリフェノール,特にアントシアニン含量が少ない。このような日本産ブドウから,ポリフェノール濃度は高いが,苦渋味が少なくスムースなフレーバーをもつ赤ワインを製造するためには,ワインの発酵や熟成中のポリフェノールの挙動を詳細に研究し,適切な製造法を構築する必要がある。ブドウを破砕すると,ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)が無色ジフェノールを酸化し,生じたキノンがアントシアニンや色素オリゴマーあるいはポリマーを脱色した。PPOがこれらの色素を直接に脱色することはなかった。マストに酵母を添加して発酵を開始すると,果皮や種子からポリフェノールが抽出され,発酵しているマストの赤色強度(アントシアニン濃度)は発酵開始後数日で最大となったが,無色ポリフェノール(カテキン,プロシアニジン,フラボノールなど)の抽出は醸し発酵が終了するまで続いた。官能検査の結果,残存する赤色色素濃度が最大となった日から数日間醸し発酵したワインが最も高い評価が得られた。22年間にわたって赤ワインを毎年製造し,これらをワインセラーで貯蔵し,色素分析を行った結果,全ポリフェノール含量は貯蔵後約10年間,それほど大きく変化しなかったが,全色素量は貯蔵期間を経るに従って徐々に減少した。ワインの各ポリフェノール画分と抗酸化活性を測定したところ,ワインの抗酸化活性と全ポリフェノール,フラボノイド,赤色色素量の間には高い相関があった。灰色カビ病菌で汚染されたブドウに特有なフェノールで,血小板凝集や血栓症の予防効果あるいは抗癌性で注目されているスチルベン化合物であるリスベラトロールは,果汁にはほとんど存在せず,醸し発酵中に果皮や種子よりワインへ移行した。リスベラトロール生産性の高いブドウ品種は,耐病性に優れていたので,この遺伝子のクローニングを行い,リスベラトロール生産性の低いブドウ品種の遺伝子との比較がなされている。
- 2000-11-01