関節リウマチモデルマウスと創薬への応用
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概要
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関節リウマチは世界人口の1%が罹患するきわめて重要な疾患である.その病因,発症機構はまだ完全には明らかにされていないが,自己免疫疾患と考えられ,関節滑膜における慢性的な炎症の結果,関節の破壊が起こる.関節で炎症性サイトカインの発現亢進が見られることが1つの特徴である.我々はヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)のtax遺伝子を導入したトランスジェニック(Tg)マウスを作製し,関節リウマチによく似た関節炎を自然発症することを先に報告した.このマウスの関節では多くのサイトカインの発現が亢進していたが,これはTaxの転写促進活性によるものと考えられる.これらのサイトカインのうち,特に発現の高かったIL-1の役割を調べるために,IL-1ノックアウト(KO)マウスを作製したところ,KOマウスでは関節炎の発症が約1/2に抑制されることが分かった.この結果はIL-1が病態形成に重要な役割を果たしていることを示唆する.そこで,IL-1シグナルが過剰に入ることが予想されるIL-1レセプターアンタゴニスト(IL-1Ra)KOマウスを作製したところ,このマウスがやはり自己免疫になり,関節炎を自然発症することを見いだした.IL-1の免疫系に対する影響を調べたところ,IL-1はT細胞上にCD40LやOX40などの副シグナル分子を誘導し,T細胞を活性化することが分かった.このため,IL-1KOマウスではT細胞の活性化が障害されており,抗体産生やサイトカイン産生が低下する.また,抗CD40L抗体や抗OX40抗体はIL-1RaKOマウスの関節炎を抑制することが分かった.これらの所見からIL-1/IL-1Raシステムが免疫系の恒常性の維持に重要な役割を果たしており,IL-1の過剰シグナルは自己免疫を引き起こすことが示された.本稿ではこれらの研究の創薬への応用の可能性についても触れたい.
- 社団法人 日本薬理学会の論文
- 2002-11-01
著者
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岩倉 洋一郎
東京大学医科学研究所 実験動物研究施設
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岩倉 洋一郎
東京大学医科学研究所ヒト疾患モデルセンター細胞機能研究分野
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岩倉 洋一郎
東京大学医科学研究所
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岩倉 洋一郎
東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター
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岩倉 洋一郎
東京理科大学生命医科学研究所実験動物学研究部門
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