NMDA受容体GluRε1サブユニット欠損マウスにおける神経機能解析
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
NMDA型グルタミン酸受容体は,中枢神経系における興奮性シナプス伝達,シナプス可塑性,神経発達および神経変性など種々の神経活動において,重要な役割を担っている.NMDA受容体は,高いCa2+透過性を有したイオンチャネルを内蔵しており,GluRζ1(NR1)サブユニットおよび4種類のGluRε1-4(NR2A-D)サブユニットによってヘテロ複合体として形成されている.標的遺伝子改変法によりGluRε1サブユニットを欠損させたマウスでは,海馬CA1領域でのNMDA受容体依存性シナプス電流や長期増強(LTP)の誘導,前脳での非競合的NMDA受容体アンタゴニスト[3H]MK-801の特異的結合量およびNMDA受容体を介する45Ca2+取り込み量が低下しており,NMDA受容体の機能低下を示した.GluRε1欠損マウスの前頭皮質および線条体においては,ドパミンおよびセロトニンの代謝回転の亢進が観察され,ドパミンおよびセロトニン作動性神経系の機能亢進を示した.この線条体におけるドパミン作動性神経系の機能亢進は,NMDA受容体の機能低下によって,ドパミン作動性神経系に対するGABA作動性神経系の抑制機能が低下することが原因であった.また,GluRε1欠損マウスでは,ドパミン作動性神経系の機能亢進による新奇環境下での運動過多が観察された.さらに,モーリス水迷路試験,恐怖条件付け試験および水探索試験において,それぞれ空間,文脈および潜在学習などの記憶·学習機能の低下が観察された.以上のことから,NMDA受容体がグルタミン酸作動性神経系のみならず,間接的にGABA作動性神経系やドパミン作動性神経系を調節することによって,各種の行動変化をもたらすことが示唆された.また,GluRε1欠損マウスが,NMDA受容体の機能低下とドパミン作動性神経系の機能亢進に関連する精神分裂病の新たなモデル動物となりえることが示唆された.
- 社団法人 日本薬理学会の論文
- 2002-06-01
著者
-
鍋島 俊隆
名古屋大学大学院医学系研究科医療薬学・附属病院薬剤部
-
鍋島 俊隆
名古屋大学大学院医学研究科医療薬学・医学部附属病院薬剤部
-
宮本 嘉明
長寿研分子遺伝子研究室
-
宮本 嘉明
名古屋大学 院 医療薬学
-
鍋島 俊隆
名古屋大学
-
宮本 嘉明
国立療養所中部病院・長寿医療研究センター分子遺伝学研究部
関連論文
- 医薬連携による臨床教育の実践 : 常駐教員主導型エイジ・ミキシング法を導入した4年生実務実習
- Methamphetamine 誘発性認知障害モデルに対する clozapine 及び haloperidol の効果
- 29-P2-172 外気温が安全キャビネット内の気温に及ぼす影響とその対策(製剤,社会の期待に応える医療薬学を)
- 30-P2-103 外来喘息教室における薬剤師の関わり(調剤,社会の期待に応える医療薬学を)
- 29-P2-17 癌性疼痛の緩和治療における胃酸分泌抑制薬の使用状況(医薬品適正使用,社会の期待に応える医療薬学を)
- P-103 米国シーダーズサイナイメディカルセンター感染症薬剤師が抗菌剤適正使用に果たす役割(3.医薬品適正使用3,医療薬学の未来へ翔(はばた)く-薬剤師の薬剤業務・教育・研究への能動的関わり-)
- P-649 新聞報道をデータベースとして解析した医療事故とその傾向(20.リスクマネジメント,"薬剤師がつくる薬物治療"-薬・薬・学の連携-)
- P-134 高カロリー輸液施行患者における無菌調製業務の現状
- P-132 高カロリー輸液の調製に関するガイドライン素案の策定
- 低用量タクロリムス分包品の調製方法の確立