「特集1.「再発甲状腺分化癌の治療戦略」─外科治療とアイソトープ治療」によせて
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概要
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本特集は第24回日本内分泌外科学会総会において討議されたテーマの中から,甲状腺外科診療において最も身近で重要な課題である「再発甲状腺分化癌の治療戦略」を採り上げました。甲状腺癌の大部分を占める甲状腺分化癌(乳頭癌>>濾胞癌)はきわめて良好な生命予後を示す固形癌として知られている。その良好な生命予後の一方,再発予後は決して良好とは言えず,切除後の累積再発率は20年間で20~30%と報告されている。こうした状況から,初回治療については再発予後予測因子を考慮して再発予防と術後早期のQOLとのバランスを考慮した術式の選択と内用療法(アブレーション)の適応について多くの提案が成されている。一方,再発後の生命予後においても,その再発様式がそれを大きく左右することが知られており,その予後予測因子を知ることは,その後の治療戦略を立てる上で大変重要な要素となる。再発病変に対する治療には,局所的治療として外科治療と骨転移,脳転移,肝転移,胸水などに対する手術以外の臓器特異的治療があり,転移臓器に非特異的な治療として放射性ヨード内用療法がある。しかし,他の再発癌に対して一般的に用いられる抗腫瘍薬の効果はほとんど期待できず,その治療戦略上の有力な手段とはなっていない。したがって,再発甲状腺癌の予後改善を目指すには手術を主体とする局所治療と内用療法の効果に頼るしかないのが現状であり,両者の適応と限界を検討し,適切な組み合わせを求めることとなる。また,遠隔転移再発癌と言えども他の癌の生命予後に比べ比較的良好な経過を取るものが多いことから,逆にQOL低下を招くような治療は避けなければならない。今回は,「再発甲状腺癌の治療戦略」を主題とし,その外科治療とアイソトープ治療のあり方をテーマとして,乳頭癌再発後の生命予後因子,再発甲状腺分化癌に対する外科治療(2題)と内用療法(2題)の5題のご発表を頂きました。従来は,我が国と欧米各国とではアイソトープ(131I)治療を取り巻く医療環境の違いから海外の治療指針を適用することによる不都合もあり,我が国で独特の治療戦略が採られてきました。すなわち,分化癌に対しては外科治療に重点を置いた局所コントロールを主体とした治療戦略が多くの施設で採られてきました。しかし,この数年の間に外来診療における放射性ヨード照射線量の増加やrh-TSHの保険診療認可などを受け,甲状腺癌に対するアイソトープ治療の環境も大きく変化しつつあり,内用療法を積極的に採りいれる診療施設が増加する傾向が伺われる。今後,我が国における「甲状腺分化癌の治療戦略」を再検討する時期が到来しているとも言える。今回の特集が新たな治療戦略の策定の一助となることを期待するものです。
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Japan Association of Endocrine Surgeons・Japanese Society of Thyroid Surgery | 論文
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