遺伝子塩基配列を用いての Fusarium 属菌の同定と分子系統学的位置付けに関する研究
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概要
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Fusarium 属菌は,分類・同定が困難な真菌として知られ,適切な分類体系と正確かつ簡便な同定手法の開発は,課題となっている.Fusarium 属菌を含む真菌の分類体系は主として形態学的指標に基づくものであるが,近年は,Fusarium 属菌の分類・同定分野にも分子生物学的手法が取り入れられつつある.本解説では,著者らが過去に行った,分子系統解析と分子生物学的手法による同定に関する研究の結果等を紹介する.最初に,Fusarium 属菌分離株の同定に適した遺伝子マーカーを明らかにする目的で,6 遺伝子の塩基配列をすべての Fusarium 属菌供試菌株において決定し,2 株ずつの全ての組み合わせの間で塩基配列相同率,および6 遺伝子それぞれの塩基置換速度を算出した.これらを比較解析した結果,アミノ酸還元酵素遺伝子(lys2)は 6 遺伝子の中で塩基置換速度が最も速く,塩基配列相同性を指標にした同定を行うための遺伝子マーカーとして,計算上,最も適していることが示された.次に,実際に食品から分離した Fusarium 属菌株を用いて,上述の 6 遺伝子の塩基配列相同性をマーカーとして同定を試み,遺伝子毎に同定結果およびシークエンスの簡便性について比較検討を行った.その結果,同定精度と簡便性という点においては,6 遺伝子のうち lys2 ではなくβ-tubulin 遺伝子が最も有用性の高い遺伝子マーカーであるということが明らかとなった.最後に,上述の 6 遺伝子が系統解析マーカーとして有用であるか否かを評価し,その結果をもとに,信頼性の高い Fusarium 属菌の系統樹構築を試みた.その結果,lys2 は他の 6 遺伝子とは異なり,独自の遺伝子進化を遂げていたことが示唆された.そのため,本遺伝子を系統推定に用いるデータセットからは外し,系統解析を行った.本研究から得られた系統樹からは,新たな species complex の存在や,形態学的に支持されている Section の非単系統性など,Fusarium 属菌の系統関係に関する新たな知見が得られた.
- 日本マイコトキシン学会の論文
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