『神経障害性疼痛と末梢免疫系細胞の中枢移行』 末梢神経損傷により脊髄内浸潤する免疫系細胞と神経障害性疼痛の関わり―TRPM2チャネルの役割―
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概要
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末梢神経の損傷等により発生する難治性の神経障害性疼痛には,損傷した末梢神経周辺へ浸潤した免疫系細胞による侵害受容性の一次感覚神経の過敏化(末梢神経感作)に加え,脊髄内グリア細胞の活性化により誘導される脊髄後角神経の過敏化(中枢神経感作)が関与することが知られている.これまで,末梢および脊髄内での神経炎症応答は個別に議論されてきたが,最近,末梢神経損傷により,血液-脊髄関門が破綻し,マクロファージやTリンパ球などの免疫系細胞が脊髄内に浸潤することが報告された.我々もこの点に注目し,緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するトランスジェニックマウスによる骨髄キメラマウスを用い,末梢神経損傷時のGFP陽性骨髄由来細胞の浸潤を観察した.その結果,末梢神経の損傷部位周辺に多量のGFP陽性免疫系細胞が浸潤するとともに,脊髄内においても,脊髄ミクログリアの活性化のピーク(約3日後)からやや遅れて,末梢神経損傷7〜14日後にかけてGFP陽性免疫系細胞,特にマクロファージが数多く浸潤する様子が観察された.また,免疫系細胞が脊髄内浸潤した領域は,脊髄ミクログリアの活性化領域とほぼ一致することも確認している.一方,我々はこれまでに,過酸化水素などの活性酸素種に対するセンサーとして機能し,免疫系細胞やグリア細胞にも発現するtransient receptor potential melastatin 2(TRPM2)が神経障害性疼痛に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた.本研究において我々は,TRPM2遺伝子欠損マウスとGFPトランスジェニックマウスを組み合わせた骨髄キメラマウスを作製し,末梢神経損傷時の免疫系細胞の脊髄内浸潤にTRPM2が関与することを明らかにした.本稿では,神経障害性疼痛における末梢由来免疫系細胞の脊髄内浸潤について,我々の最近の知見を中心に概説する.
著者
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白川 久志
京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野
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金子 周司
京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解析学分野
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中川 貴之
京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解析学
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原口 佳代
京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解析学分野
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勇 昂一
京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解析学分野
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宗 可奈子
京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解析学分野
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朝倉 佳代子
京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解析学分野
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白川 久志
京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解析学分野
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