黄河源流域の永久凍土および水文環境
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概要
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チベット高原北東部に位置する黄河源流域において,永久凍土分布とその縮小を明らかにするために,2003年から2006年にかけて凍土環境の調査を行った.まず標高3250 ~4800 m間の18 ヵ所において,弾性波探査,電気探査と地温調査により永久凍土の有無を調べ,GISを用いて探査結果に最も合う永久凍土分布図を作成した.また,マドォ測候所(標高4273 m)にて2年間,気温,地温(0 ~8 m深),降水量,積雪深,土壌水分,地下水位の連続観測を行い,地中の熱および水文条件の季節変化について検討した.さらに,地温プロファイルの数値シミュレーションによって,観測されている気温変化(温暖化)によって,永久凍土がどの程度縮小しうるか検討した. 速いP波伝播速度(>2 km/s)と相対的に高い電気比抵抗値(650 ~1100 Ωm)が地下浅い位置に検出された標高4300 m以上の地点では,厚さ10 ~30 mの永久凍土層があると推定された.一方,標高4000 m以下では堆積物全体が遅いP波速度(<1 km/s)を示し,永久凍土は存在しないと考えられる.標高4200 ~4300 mにある広大な沖積低地では,永久凍土は存在しないか,かなり縮小していた.年平均地表面温度(MAST)が負値となるのも4300 m以上で,その標高以上にのみ永久凍土が広範に分布すると予想された.測候所では季節的な凍結が深さ2.6 mまで及んだ.冬季,積雪をほとんど欠くことが,厚い季節凍土層が形成される主因だろう.1980年代の文献には,測候所の地下に永久凍土が存在するとされていたが,深さ4 ~8 mの地温は2年間にわたり0°Cを上回っていた(<4 °C).MASTの年々変化が年平均気温の変化に従うとすると,標高4200 ~4300 mにある沖積低地で過去半世紀以内に,永久凍土が急激に縮小したと考えられる.数値シミュレーションからも,薄い(<15 m)永久凍土層であればその期間内に急激に縮小しうることが示された.近年の温暖化は,源流域において約3000 km2 に及ぶ沖積低地の永久凍土を縮小させていると推定された.
著者
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末吉 哲雄
Center for Climate System Research, University of Tokyo
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池田 敦
Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba
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石井 武政
AIST, Geological Survey of Japan, Institute for Geo-Resources and Environment
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松岡 憲知
Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba