北海道盲導犬協会におけるラブラドールレトリバー213頭についての若年白内障の発生状況調査
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
盲導犬とは視覚障害を持つヒトを誘導するための使役犬であり、そのため、盲導犬自身が視覚障害を生じることは使役を果たすために重大な問題となる。本研究では視覚障害の原因となる白内障の発生を繁殖計画により制御することを目指して、最初の段階として、盲導犬として訓練期間中のラブラドールレトリバーにおける若年白内障の発生状況を調査したのでその概要を報告する。盲導犬として訓練中のラブラドールレトリバー213頭について威嚇瞬目反応、対光反射、眼圧測定、細隙灯生体顕微鏡検査を実施し、白内障が検出された個体ごとに白内障の形成部位、年齢、性別、血縁について調査を行った。若年白内障は12頭17眼に認められ、白内障発生個体の平均年齢は1.24±0.24歳、発生率は5.63%であった。白内障発生個体12頭うち、水晶体後部に白内障が観察されたのは11頭であった。血縁についての調査では、白内障発生個体で同じ両親から生まれた個体は2頭1組(Group A)、父犬が同じである場合が2組(Group B, C)、母犬が同じである場合は3組(Group A, D, E)で認められた。本研究におけるラブラドールレトリバーの白内障の発生率は北米での調査においてコントロール群とされた雑種または交雑種の白内障発生率よりも高く、このことから本犬種における白内障の好発傾向が再確認された。本研究における白内障発生率は英国やオランダにおける本犬種の白内障発生率よりもやや低い成績となった。この原因としてはこれらの研究が全年齢を対象とした報告であったのに対して、本研究が盲導犬として訓練中の若齢犬を対象とした研究であり、より高齢での白内障の発生を検出できなかったことが考慮された。よって、本研究の対象犬については引き続き、追跡調査の必要があると考えられた。白内障の形成部位についての検討では検出された白内障のほとんどが水晶体後部に存在し、この傾向は既報でのラブラドールレトリバーの白内障所見と同様な傾向であった。白内障発生個体の血縁関係の調査では明らかな血縁関係が認められ、遺伝性素因が強く関連していると考えられた。よって、盲導犬の選定においては白内障個体を避けるべきであり、また、今後は更に白内障発生の危険を回避できるような繁殖計画の策定とその改善に努める必要があると考えられた。
著者
-
諏訪 義典
北海道盲導犬協会
-
余戸 拓也
日本獣医生命科学大学 獣医外科学教室
-
古川 敏紀
倉敷芸術科学大学 生命科学部 生命動物科学科動物薬物治療看護学研究室
-
余戸 拓也
日本獣医生命科学大学獣医外科学教室
-
久保 明
どうぶつ眼科VECS、高橋動物病院
-
寺門 邦彦
日本獣医生命科学大学 獣医外科学教室
-
古川 敏紀
倉敷芸術科学大学生命科学部生命動物科学科
関連論文
- 血栓症を併発したCushing病の犬の一例(外科学)
- P-28. 虹彩括約筋における各種ホスホジエステラーゼ阻害剤による弛緩と環状ヌクレオチドの関連(第49回日本平滑筋学会総会)
- 297症例の犬の椎間板ヘルニアの疫学的特徴に関する遡及的検討(外科学)
- イヌ胚のガラス化保存および非外科的移植による産子作出
- T1強調画像にみられる犬の下垂体後葉の高信号とAVPの関係(外科学)
- 胸腰部椎間板逸脱症に罹患したミニチュアダックスフント68症例における CT-myelography 画像と臨床症状の関係について
- 骨癒合遅延症例に対する自家骨髄由来間葉系間質細胞を用いた治療法の試み
- 骨癒合遅延症例に対する自己骨髄由来間質細胞を用いた再生治療法の試み
- 健常ビーグル犬におけるフルコナゾールのシクロスポリン薬物動態に対する影響(薬理学)
- イヌ卵巣のガラス化保存の試み
- イヌ卵巣のガラス化保存と移植
- 血栓塞栓症を併発した Cushing 病の犬の一例
- 前十字靭帯断裂ならびに馬尾症候群を併発した症例における脛骨高平部水平化骨切り術実施後の経時的変化に関する検討
- 大腿骨骨幹部骨折後癒合不全ならびに膝蓋骨内方脱臼 (Grade IV) を併発した犬の一例
- 同種保存皮質骨移植、自己海綿質骨移植および線維芽細胞成長因子(FGF-2)を利用して治療を行った橈尺骨骨折・生物学的無活性型癒合不全のトイプードルの2例
- 術後の呼吸障害に対して気管内カテーテルにて酸素療法を実施した犬の3例
- 8.犬の椎間板逸脱症罹患症例の逸脱椎間板物質におけるRunx2の発現について(一般講演,第21回日本獣医畜産大学学術交流会)
- 犬前十字靭帯断裂症例におけるTibial Plateau Angleの骨関節炎の重症度に及ぼす影響(外科学)
- 犬のメデトミジン・ケタミン併用麻酔における薬物動態並びに薬効薬理に関する検討
- 血栓塞栓症を併発した下垂体依存性副腎皮質機能亢進症の犬の1例
- 犬の前十字靭帯断裂に対して Proximal Tibial Osteotomy を実施した8症例における膝関節マーカーの変動
- 血栓塞栓症を併発した下垂体依存性副腎皮質機能亢進症の犬の1例
- 胸腰部椎間板逸脱症に罹患したミニチュアダックスフント68症例における CT-myelography 画像と臨床症状の関係について
- イヌGV期卵母細胞および胚のガラス化保存
- イヌにおける着床前の胚発生および非外科的手法によるガラス化胚移植の試み
- 犬の前十字靭帯断裂に対して Proximal Tibial Osteotomy を実施した8症例における膝関節マーカーの変動
- 犬唾液中sIgA濃度の盲導犬適性判定への応用(動物行動学)
- 骨癒合遅延症例に対する自己骨髄由来間質細胞を用いた再生治療法の試み
- 犬のメデトミジン・ケタミン併用麻酔における薬物動態並びに薬効薬理に関する検討
- 角膜損傷30眼に対する治療用ソフトコンタクトレンズの治療効果
- 強膜内シリコン義眼挿入術を施した犬46眼の手術成績
- 前房内潅流により浮遊性虹彩毛様体嚢腫除去を行った犬の1症例
- 北海道盲導犬協会におけるラブラドールレトリバー213頭についての若年白内障の発生状況調査
- 犬における2種類の眼底カメラの比較
- 正常犬におけるメデトミジンが引き起こす体温低下に対する加温輸液の静脈内投与
- 災害時の動物救護を考える : 東日本大震災から見えてきたこと、そしてこれからの課題とは(第7回)獣医災害トリアージ
- 耳鏡を用いたラットの性周期判定
- 外側鼓室胞骨切り術に超音波手術器を使用した慢性化膿性中耳炎のアメリカン・コッカー・スパニエルの1例
- 糖尿病に関連するイヌの眼疾患
- 脛骨高平部水平化骨切り術のプレートが Tibial Plateau Angle(TPA) と mechanical Medial Proximal Tibial Angle (mMPTA) に与える影響