慢性中耳炎病巣より分離されたStaphylococcus aureusのPhage-typingによる観察
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概要
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(目的) 化学療法の発達普及に伴い, 慢性中耳炎病巣より分離されるSt. aureusが増加して来た. これはSt. aureusが他の菌に比べて多剤耐性化しやすいためである. そこで慢性中耳炎病巣内で (i) St. aureusは, どのようにして多剤耐性化するのか, (ii) St. aureusは長くとどまっているのか, あるいは, 常に変動しているのか, (iii) phage typeによって術後経過が異るのか, 又, 薬剤感受性や病巣の乾燥に対する強さが異るのかを知る目的で本実験を行った.<BR>(実験方法) 慢性中耳炎患者の術後経過の良好であった症例の術前に分離された, St. aureus, 又, 術後経過の悪かった症例の術前, 術中, 術後より分離されたSt. aureus, 又, 1人の患者より頻回に分離されたSt. aureusについて, phage typingと薬剤感受性検査を行い, 更に, こうしてphage typeのわかったSt. aureusについて乾燥実験を行い, 慢性中耳炎病巣における, St. aureusの動態について推察した.<BR>(結果) 1. 当科の慢性中耳炎患者の耳漏より分離されたSt. aureus 158株についてphage typingを施行した. 型別不能群61株 (38.6%), III群52株 (32.9%), I群20株 (12.7%), 混合群19株, II群5株, IV群1株であった. そうして術前耳と術後耳より分離されたSt. aureusのphage型の間には差が認められなかった.<BR>2. 術前にSt. aureusが分離され術後も経過が悪く続いてSt. aureusが分離された症例8例中, 5例は術前, 術後に同じphage型の菌が分離された. これらの症例では術前の菌が術創で増殖したものと推定される.<BR>3. 術後良好例と悪化例の術前に分離されたSt. aureusのphage型の間には特別な差は見当らなかった. 又, 薬剤感受性にも差は認められなかった.<BR>4. 当科の慢性中耳炎患者の耳漏より分離されるSt. aureusの77.6%が3剤以上に耐性になっており, ほとんど同じ薬剤の組合せで多剤耐性になっていた。これらは溶原phageによって多剤耐性化されたのでないかという可能性を示唆するものである.<BR>5. St. aureusのphage型と乾燥に対する抵抗性との間に差は認められなかった. 又, St. aureusは裸の状態で乾燥されるよりも, 何らかのもので周囲を囲まれて乾燥される方が乾燥に対して強いことが認められた.<BR>これらのことから術前のSt. aureusのphage型や, その抗生剤に対する感受性などは, 術後経過を決める主要な因子ではないと考えられる. しかし, 術後経過が悪化した症例では, 術創に残した菌が何らかの役割をはたしている場合が多い. 又, 慢性中耳炎の病巣内に存在するSt. aureusは, 病巣が乾燥しても空中や器具についているSt. aureurよりは長く生存するのでないかと推察される.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文
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