排便反射における肛門機能温存と手術―基礎から臨床へ―
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概要
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統合的な機能である排便反射は多岐にわたる機能の協調作用により引き起こされ,強化されている.本講演では,主として直腸―直腸収縮反射(R−R反射)と直腸―内肛門括約筋弛緩反射(R−IAS反射)にターゲットを絞り,この両反射のメカニズムを明らかにする.直腸を適度に加圧伸展すると伸展部位で収縮反射が数回起こる.それと同期して,内肛門括約筋の弛緩反射が起こる.肛門機能としては外肛門括約筋も働いているが,本研究では筋弛緩薬投与によりその関与は除外してある.これらのR−R反射とR−IAS反射は,(1)骨盤神経を求心路,遠心路とする仙髄レベルの促進反射,(2)結腸神経を求心路,遠心路とする腰髄レベルの抑制反射,(3)壁内神経系を介する内反射によって制御されている、さらにこれらの反射は(4)求心路を骨盤神経とする橋排便反射中枢を介する腰髄レベルの結腸神経活動の抑制機構によって制御されている.直腸における糞便の貯留には腰髄レベルの抑制反射が関与し,排便が起こるときにはこの抑制反射の脱抑制が鍵となる.さらに,反射経路の可塑性について検討した.モルモット腰仙髄損傷モデルにおいて損傷直後は外反射が働かなくなり【(3)のみが働く】,R−R反射とR−IAS反射は約40%程度に減弱するが,4日目以降は回復した.すなわち内反射のみで十分な排便機能が発現してくる.一方,内反射経路を直腸と内肛門括約筋の間で切断する目的で直腸壁を切離した後縫合すると,術後R−R反射は変わらず起こるが,R−IAS反射は一旦消失する.術後8週目でコントロール群と有意差を認めないほどR−IAS反射は回復した.すなわち,内肛門括約筋の機能は回復した.免疫染色組織像においても術後8週目では,吻合部を越えてつながる神経線維が観察された.これらの結果はR−IAS反射の経日的な回復と一致した壁内神経系の再生を示唆した.Brain-derived neurotrophic factor(BDNF)を縫合部位に持続的に作用させるとR−IAS反射の回復を早め,その経過と一致して壁内神経の再生は促進された.これらの研究により,排便反射のメカニズムを明らかにすると共に,それらのメカニズムは機能を保持する上で有利な可塑性を有することを明らかにした.さらに,その可塑性を利用した肛門機能温存のための新たな治療法の開発の可能性が示唆された.
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