虚偽自白の心理学とその射程
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
わが国では刑事取調べにおいて無実の人が嘘の自白をする例が少なくない.この虚偽自白の典型例は強制下の迎合によるものである.身柄を拘束された被疑者に対して,取調官が被疑者は犯人に間違いないと確信して取り調べるが,それはしばしば証拠なき確信である.この状況のもとで,被疑者は一般に想像されるよりはるかに強い圧力をこうむる.被疑者は身近な人々から遮断され,生活を警察のコントロール下に置かれ,屈辱的なことばを投げつけられ,弁明しても聞き入れてはもらえない無力感にさいなまれる.しかもこの苦しみがいつまで続くかわからず,見通しを失ってしまう.そこでは有罪となったときに予想される刑罰が自白を押しとどめる歯止めにならない.取調べ下の苦しみはたったいま味わっているものであって,それを将来に予想される刑罰の可能性と比べることはできないからであり,また,無実の人にとっては予想されるはずの刑罰に現実感をもてないからである.虚偽自白の心理は,第三者の視点からではなく,まさに渦中の当事者の視点からしか理解できない.この渦中の視点からの心理学をどのように展開するかは,今後,刑事事件を超えた課題となりうるはずである.
著者
関連論文
- 発達心理学の制度化と人間の個体化
- 不登校を問題だと言うことが問題である(自主シンポジウム29)
- 虚偽自白の心理学とその射程
- 臨床ゼミ 発達障害児への心理的援助(第12回)「発達障害」と非行・犯罪
- 子どもを見る視点をどうつくるか (子ども社会専攻企画2009の報告)
- 今の子どもをどうとらえるか (子ども社会専攻企画2009の報告)
- ことば--この重宝にして困難なるもの (特集 発達のなかのことば)
- セミナー 発達心理学(86)
- セミナー 発達心理学(85)
- 提案1 学校という制度空間におけるコミュニケーション(コミュニケーション教育の探究,春期学会(第106回 千葉大会))
- セミナー 発達心理学(73)
- 知的障害と犯罪の物語 (特集 そだちの遅れにどう向き合うか) -- (いかに社会を開いてゆくか)
- 臨床発達心理学の基本概念 : 志向性から物語性まで
- (1) いま親と子が生きるかたち : 今日の「児童虐待」とその時代性
- 人との関係に問題をもつ子どもたち(第21回)木片やオイル缶に執着する自閉症青年の心
- (座談会) 児童虐待問題と子ども学の射程
- 現場の心理学はどこまで普遍性を持ちうるのか……というか,現場を離れて普遍性はあるのか?(日本質的心理学会第7回大会基調講演,大会レポート)
- 自白供述分析の3次元的視覚化システムにおけるテクノロジー : 法学、心理学の融合のかたち(法と心理学会第10回大会ワークショップ)
- 韓国法心理学会2003年春季国際学術大会参加報告(海外学会参加報告)