布衣始について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿は、これまで研究のなかった天皇装束から上皇装束へ移行する転換点となる布衣始(ほういはじめ)という儀礼の実態を考察したものである。 第一章では、布衣始考察の前提となる天皇装束と上皇装束の相違をまとめた。公家男子装束は必ず冠か烏帽子を被り、冠対応装束と烏帽子対応装束に分類できる。天皇は冠しか被らず、冠対応装束のうち束帯と引直衣という特殊な冠直衣だけを着用した。一方、上皇は臣下と同様に烏帽子対応装束も着用した。かかる烏帽子対応装束の代表が布衣(狩衣)であり、布衣始とは、天皇譲位後初めて烏帽子狩衣を着用する儀礼である。 ついで宇多から正親町まで(一部近世を含む)のうち上皇だけを対象として、古記録を中心とする諸文献から布衣始やそれに関連する記事を抜き出し、第二章平安時代(宇多~安徳)、第三章鎌倉時代(後鳥羽~光厳)、第四章南北朝時代以降(後醍醐~正親町)の各時代順・各上皇順に整理して、布衣始の実態を追った。 天皇装束と上皇装束の相違は摂関期から認識されていたが、上皇が布衣を着用するという行為が意識されるようになるのは高倉・後白河からであり、それが布衣始という儀礼として完成し、天皇退位儀礼の一環として位置づけられるようになるのは鎌倉時代、特に後嵯峨以降である。さらに南北朝時代には北朝に継承され、室町時代には異例が多くなり、上皇のいない戦国時代を経て、江戸時代で復活するという流れがわかった。 最後に、布衣始が院伝奏や院評定制といった院政を運営する制度と同じく後嵯峨朝で完成した点に注目し、布衣始の成立と定着もかかる流れの一環として理解することができ、布衣始が伝奏や評定が行われた院政の中心的場である仙洞弘御所で行われたことから、布衣始は院政開始儀礼であり、布衣という装束を媒介として天皇の王権から上皇(「治天の君」)という新たな王権への移行を可視的に提示する儀礼であったという見通しを述べた。
- 国際日本文化研究センターの論文
著者
関連論文
- 註釈 『御堂関白記』(217)長和5年十月十六日〜二十一日条
- 註釈 『御堂関白記』(202)長和5年五月十八日〜二十一日条
- 註釈 『御堂関白記』(198)長和5年四月二十二日〜二十四日条
- 布衣始について
- 註釈 『御堂関白記』(191)長和5年三月二十二日〜二十五日条
- 註釈 『御堂関白記』(185)長和5年3月3日〜5日条
- 装束からみた天皇の人生 (生老死と儀礼に関する通史的研究)
- 文献にみる神宝--六国史・摂関期古記録を中心として
- 座談会--有職故実を通してみる平安貴族の社会生活 (平安朝特集)
- 時代劇を読む 烏帽子のいろいろ
- 時代劇を読む 冠と烏帽子
- 『御堂関白記』(179)長和5年2月5日〜8日条
- 書評と紹介 高橋典幸・山田邦明・保谷徹・一ノ瀬俊也著『日本軍事史』
- 軍記物語からみた中世の武器の使用と戦闘 (特集 軍記と合戦)
- 武器から見た中世武士論
- 義経の戦闘 : 一ノ谷合戦を中心として
- 神宝基礎史料集成--摂関期まで編年史料 (共同研究 神仏信仰に関する通史的研究)
- 刀剣の銘と鑑定--[日本古文書学会]第四十回大会シンポジウムに寄せて
- 武具・装束・馬--物にこだわる (特集 平家物語--生まれかわりつづける物語) -- (それぞれの場を広げる)
- 宗教・文化研究所公開講座講演録 天皇と装束
- 特集史論 やってきた「武士の世」を担った人々 武士とはなにか (2012年5月号特集 源氏対平氏 : 武士の世のはじまり)
- 平成16年度 文化財学会春季大会講演会 弓矢・刀剣・甲冑の世界
- 時代劇を読む 有職故実
- 時代劇を読む 馬と馬具
- 時代劇を読む 的に刺さる矢
- 時代劇を読む 腹巻鎧
- 時代劇を読む 女房装束と十二単
- 時代劇を読む 歴史的身体運用法
- 時代劇を読む 天皇の装束
- 時代劇を読む 武具の用語
- 時代劇を読む 武士という戦士
- 時代劇を読む 武士道という虚構
- 儀礼にみる公家と武家 : 『建内記』応永二十四年八月十五日条から (日記の総合的研究)
- 書評と紹介 高橋昌明著『武士の成立 武士像の創出』
- 騎射と流鏑馬--その射法について (小特集 年中行事の世界)
- 箙の成立--中世武士論・戦闘論に向けて (特集 戦争の中世社会史)
- 文化の窓 東京国立博物館「日本のかたな」展を見て
- 長刀源流私考
- 武器からみた内乱期の戦闘--遺品と軍記物語
- 『法体装束抄』にみる法体装束(杉橋隆夫教授退職記念論集)
- 『止戈枢要』にみえる騎射術 : 犬追物を中心として (特集 資料がかたる物語、記録からよむ物語)
- 『洛中洛外図屏風』歴博甲本にみえる内裏とその行事 (開館30周年記念論文集(1))
- 止戈枢要について : 続録を中心として (中近世における武士と武家の資料論的研究)
- 儀礼にみる公家と武家 : 『建内記』応永二十四年八月十五日条から (日記の総合的研究)
- 布衣始について
- 義経の戦闘 : 一ノ谷合戦を中心として