千宗旦の出自をめぐる「利休血脈論争」について--現代家元システムへの道程
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概要
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本稿において、茶の湯の家元である千家の血脈をめぐる論争を材料として、家元システムの現代的展開について考察する。 千利休の直系の子孫である三家の千家は、茶の湯の家元として現在もその存在感を示している。その千家の初期の系譜のうち、千家第三代の千宗旦の出自については、千宗旦が千道安の実子であるという説と千少庵妻・千宗旦母が千利休の娘であるという説とが、昭和三十年前後に強く主張された。その対立する見解は、表千家の機関誌である『茶道雑誌』の誌上に発表されたものが多い。これは一種の論争として、四十年代、五十年代と、新たな論者が参入しながら継続した。この背景には、現在の千家が千利休の血を引いているのかどうかという教条主義的な問題があり、それが論争を大きくしたといえる。すなわち、「利休血脈論争」と呼ぶべき性格のものであった。 現在では、千少庵妻は千利休の娘「お亀」であると一般には理解されている。しかし、結論を出すには根拠が不十分という考え方も歴史学者の間では依然として根強い。そもそも、この両説は江戸時代から存在しており、千家の系譜に関する歴史資料自体がすでに意図的に潤色されている可能性がある。 ところで、筆者の関心は、江戸時代からすでに存在している説をめぐって、なぜ昭和三十年代から論争に発展しなければならなかったかにある。近世に誕生し、発展してきた家元システムは、明治維新に伴う混乱期を乗り越え、第二次世界大戦後には、伝統文化の領域における頂点に上昇することとなる。さらに、昭和三十年以降の高度経済成長により、経済力を身につけた大衆に立脚する現代の巨大家元システムへと飛躍することに成功する。その過程において、千利休の血脈を継承していることが、家元の正統性の根拠としてあらためて主張される必要があったものと考える。
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