『選挙制度調査勅命委員会報告書(1910年)』分析-「代表原理」の」比較国制史研究の基礎視角設定のために-
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概要
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周知のように,国際政治レヴェルでのあの劇的な「(東西)冷戦体制」の崩壊(1989年)後,日本政治レヴェルでの「55年体制」の崩壊(1993年)によって,翌94年に公職選挙法が改正され,従来の日本独自のいわゆる「中選挙区制」(単記制)に代り,「小選挙区比例代表並立制」という新たな選挙制度が採用され,1996年10月にそれに基づく「総選挙」が実施された。その結果1)についての諸議論等は別にして,歴史学的観点からいえば,このようなわが国における新たな事態は,改めて,議会制民主主義の観点から,欧米諸国における選挙制度に関する比較史的研究の必要性を提起しているのではあるまいか。因みに,欧米諸国における選挙制度=代表原理の現状を確認すると,例えば,主要7ヵ国(いわゆるG7)の場合,イギリス及びその旧植民地たるアメリカ合衆国とカナダにおいては「小選挙区」(1回投票)制による「比較多数代表」原理,フランスにおいては「小選挙区2回投票」制による「絶対多数代表」原理,イタリアにおいては(つい1993年以来の)「小選挙区比例代表並立制」による「多数代表」と「比例代表」原理の並立2),そしてドイツにおいては「小選挙区比例代表併用制」による「多数代表」と「比例代表原理の併用という,選挙制度-代表原理が採用されている3)。このように主要7ヵ国間で相異なる選挙制度=代表原理は,どのような歴史的要因=背景によるのであろうか。またそれはどのような歴史的意味をもっているのであろうか。このような問題関心から,本稿では,前拙稿,すなわち,いわゆる議会制民主主義の「祖国」たるイギリスの国家レヴェルと地方レヴェルの双方について,国家の機能=行財政と関連させつつ,構造=代議制(庶民院の選挙法改正と地方政府の選挙関係法)を取り上げ,その展開が,国民(住民)=納税者=有権者にとってもつ意味を解明する-視角を検討したところの)「欧米近現代財政史・国制史研究の一視角」(中)(岩手大学人文社会科学部紀要『アルテスリベラレス』第59号,1996年12月)を踏まえつつ,国家レヴェルでのいわゆる第三次選挙法改正(1884-85年)から第四次選挙法改正(1918年)に至る過程で提起された選挙制度改革問題に関する調査報告書たる,1910年の『選挙制度調査勅命委員会報告書』(Report of the Royal Commission appointed to enquire into Electoral Systems with Appendices,1910,[Cd. 5163].)を取り上げて,そこにおける諸選挙制度(=代表原理)の調査内容-具体的には,1910年時点におけるイギリスの現状(=「小選挙区」(1回投票)制による「比較多数代表」原理)の観点から,種々の改革論(とりわけ,一方での(「小選挙区2回投票」制等による)「絶対多数代表」原理,他方での(種々の制度による)「少数代表」及び「比例代表」原理」)の批判的な検討内容-を明らかにし,また第四次選挙法改正(1918年)を展望することによって,欧米諸国におけるいわば「『代表原理』の比較国制史研究」のための基礎視角を設定する作業の一環としたい。
- 1997-03-28
著者
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