英国における自殺幇助をめぐる論争とスイスへの渡航幇助自殺 : 渡航医療が国内医療の法規制に及ぼす影響の一考察
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
近年英国で問題となっているスイスへの渡航幇助自殺は、渡航医療の一形態と捉えることができる。本稿では、英国国内の生命の終結をめぐる議論およびPurdy v. DPP判決の内容と判決後に出された自殺幇助の訴追方針を概観し、渡航幇助自殺が英国の自殺幇助の議論全体にもたらした影響について考察した。英国では、渡航幇助自殺を行った患者を手助けした家族は訴追されないケースが蓄積し、Purdy貴族院判決後には、自殺幇助における訴追方針の明確化が求められた。こうして、国内で自殺幇助を合法化することは実現しないまま、渡航幇助自殺を事実上許容する訴追方針が出された。国内の自殺幇助の問題が、渡航幇助自殺を包含する形で一応の解決に落ち着いたともとれる現状にあることがわかった。このような展開がもたらされたのは、渡航医療の存在が国内議論に変化を生じさせた結果だと考えられる。自国内で実施不可能な行為が、渡航医療の利用によって海外で実現されるケースが蓄積されることにより、国内規制の議論に一種の「緊張関係」が生じ、従来の論争構造とは異なる新たな展開が生まれる可能性が示唆された。日本においても、臓器移植や生殖補助医療などにおいて、渡航医療を利用するケースがすでに報告されており、今後はそのようなケースの蓄積が、国内の議論や規制に与える影響を検討する必要がある。
- 日本生命倫理学会の論文
- 2012-09-19
著者
関連論文
- デッド・ドナー・ルールの倫理学的検討
- 近年の米国における死の定義をめぐる論争
- 公衆衛生の倫理に関する教育の現状とカリキュラムの方向性
- エンハンスメント概念の分析とその含意(第18回日本生命倫理学会年次大会シンポジウム)
- 6. The Ethics of the Allocation of Health Care Resources and QALY
- Medical Tourismが受入国の医療環境に及ぼす影響の論点整理
- 英国における自殺幇助をめぐる論争とスイスへの渡航幇助自殺 : 渡航医療が国内医療の法規制に及ぼす影響の一考察