医療経済評価手法の概要
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
我が国の公的な医療保険制度のもとで提供される医療には,患者の自己負担以外に健康保険料や税金が投入されている.また国や自治体において実施される各種保健事業に関しても税金が用いられている.このようなしくみの中で,なるべく効率的な保健医療を提供することが重要である.そのためのひとつの方法が保健医療の経済評価とその応用である.保健医療の効率性を考える際に重要な点は費用対効果の考え方である.単に費用が少ない方法が効率的なわけではない.効率は必ず投入(費用)に対してどれだけの産出(効果)が得られるかを考える必要がある.さらに複数の方法を比較することも重要である.例えば,新しい方法は従来の方法よりも費用がかかるかもしれない.しかし,より高い効果を得るのに見合った投資であれば,むしろ積極的に実施すべきである.医療提供者も患者もあるいは国民もより良い保健医療を望んでいる.そのためには追加的な負担もあり得る.ただし,効果とのバランスでどこに投資するかを選択すべきである.追加的な成果を得るためにどの程度の追加的な投資が必要かを表す指標が増分費用効果比(Incremental Cost Effectiveness Ratio: ICER)である.保健医療の費用効果分析で用いる効果の指標は疾患や介入方法によって適切なものを設定する.例えば,疾患の治療であれば治癒率などである.がんや心疾患といった生死に大きく関わる疾患の治療に関しては,従来から生存年数の延長が用いられてきた.しかし近年,単に延命だけを目的とするのではなくその間のQuality of Lifeが重要であるという観点から,治療の成果を表す指標として質調整生存年(Quality Adjusted Life Year: QALY)を用いる研究が増えてきている.QALYは様々な疾患や介入等に対して共通に用いることが可能な指標であることから,医療経済評価を政策に応用している国では多く用いられている.保健医療の費用対効果の評価をもとに意思決定をする場合に重要なのはアセスメント(assessment)とアプレイザル(appraisal)の考え方である.アセスメントは保健医療技術の有効性,安全性,さらに費用対効果といった点を学術的な観点からできる限り妥当な方法で評価することを指し,アプレイザルは,これらの分析結果の解釈や,倫理的,社会的な影響といった費用対効果以外の要素も加味して総合的に評価するものである.費用対効果の評価は保健医療技術を評価するための一つの指標でありアプレイザルにおいて,これ以外の要素も含めた判断をすることが重要である.
- 国立保健医療科学院の論文
著者
関連論文
- 3. Empirical Evidence on Relation between QALY and Productivity Loss
- 2. How to Handle with "Unrelated Cost" in Economic Evaluation?
- 1. Issues on Estimating Costs in Economic Evaluation
- 日本における職場でのメンタルヘルスの第一次予防対策に関する費用便益分析
- 医療経済評価研究における分析手法に関するガイドライン
- CHEERS声明-医療経済評価における報告様式のガイダンス-
- 医療経済評価手法の概要