『源氏物語』と『白氏文集』 : 類似表現の検討
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概要
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『源氏物語』の桐壷巻に、亡き桐壷更衣の母君を帝の使い命婦が訪れ、帝の言葉を伝え、共に亡き更衣を偲ぶ名場面がある。娘を亡くした母君の歎きのことば「命長さの、いとつらう思ひたまへ知らるるに、」について『河海抄』には「荘子曰く寿則多辱」という注がある。しかし、「命長さの、いとつらう思ひたまへ知らるるに、」の「いとつらう」と『荘子』の「寿則多辱」の「辱多し」とでは、かなり意味がずれる。一方、白楽天の「感旧」の詩は、二十年の問に親しい四人の友人が次々に亡くなり、自分だけが生きながらえた実感を結びの句で「人生莫羨苦長命 命長感旧多悲辛(人生羨むこと莫かれ苦だ長命なることを命長ければ旧に感じ悲辛多し)」と直截に表現しており、読者の心を打つ。晩年の白詩には、このような飾り気の無い率直な表現が多い。親しい人々を次々と亡くした実感を素直に述べており、万人の心を打つもののあはれが詠まれている。白氏文集を愛読し、『源氏物語』の中に多く利用した紫式部はこの詩も知っていて、桐壷巻に利用した可能性もある。『源氏物語』の中には『荘子』を利用した明確な例は「寿則多辱」を除けば認めにくい。従来の注の検討を行い、白詩との関係を考察する。
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