ビデオ呈示された弁護人弁論と誘導自白バイアスの社会心理学的研究
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概要
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本研究では自白を強制されたと被告人が主張する殺人事件の模擬裁判で、弁護人弁論の内容によって有罪と判断される傾向がどのように変わるかを実験的に検討した。具体的には、検察官と弁護人の弁論と裁判官説示を4群の参加者に順にビデオ呈示して判断を求めた。実験群は、自白が強制されたとだけ弁護人が主張する統制条件、それに取り調べの詳細を少し加える強制条件、さらに自白するほうが裁判で有利になると言われたことを強調する有利条件、自白しなければ最高刑にすると脅されたとする不利条件である。弁護人の弁論ビデオ後の判断で統計的に有意な条件差が見られ、この時点での有罪心証は有利条件で最も強くなった。これはKassin & Wrightsman(1981)の「誘導自白バイアス」を再現する結果である。この実験から得られた他のデータなどから、このバイアスを説明するための社会心理学的な仮説をいくつか提案した。たとえば、有利条件で実験参加者の課題に対する興味や動機づけが弱まっていた可能性や、自白強制を利得的働きかけと損失的働きかけの状況として対比し、被告人と事実認定者の両者について、フレーミング効果の枠組みで解釈するものである。誘導自白バイアスをはじめ、法と心理の研究は全般に、社会心理学や意思決定研究に有用な実験材料を提供することを強調した。最後に、近く導入される裁判員制度に関連づけ、これらの結果を考察した。