現代世界における人類学的実践の困難と可能性(第7回日本文化人類学会賞受賞記念論文)
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概要
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現代世界が経験している激動は、人類学者のフィールドとそのフィールドで暮らしている人々に直接的な影響を与えている。内戦と殺戮、開発と環境破壊、移民と排除、貧困と感染症の蔓延、といった「問題」は、たんなるローカルな「問題」にとどまらず、グローバルな依存関係のなかで「地続き」に現象する。また人類学者自身が、暴力的衝突や内戦に巻き込まれたり、環境破壊や大規模開発、あるいは環境保全や開発反対運動に関わったりすることは、今やフィールドの日常となりつつある。こうした状況に直面した人類学は、これまでのフィールドにおける中立性と客観性を(建前上)強調する立場から、対象への関与と価値判断を積極的に承認する立場へと移行していくことになる。現代人類学は「人権尊重」「地球環境保全」「民主的統治」などをグローバル化時代の普遍的価値基準として承認し、異文化への介入を試みてきた。だがこのような普遍主義的傾向の肥大化は、さまざまな疑問や反作用を生み出している。その核心は、フィールドへの「関与」「介入」を正当化する論理の根本は何かという問題だろう。本論は、この「普遍主義」の勃興の様相を明らかにした上で、それがもつ必然性と危険性を検討し、相対主義的な世界と新たに登場した普遍主義的な世界認識をこれからの人類学はどのように位置づけ関係させるかについて考察を試みる。ただしその試みは、普遍主義的思考を拒否して、相対主義を復活させるという単純なものでも、その逆に相対主義的思考を放逐し普遍主義的価値基準を学的核心にしようというものでもない。本論文の目的は、この二つの世界認識を現代人類学はいかにして接合し、錯綜する現実に対処する方向性を定めるのかについて日常人類学の生活論に基づいた一つの回答を提出することにある。
- 2013-06-30
著者
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