土地の正しい所有者は誰か:知の政治学を超えて : 東アフリカ・マサイ人の土地返還要求の事例から(<特集>環境をめぐる正当性/正統性の論理-時間・歴史・記憶-)
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概要
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東アフリカ・ケニアの首都ナイロビから西北に200キロメートル離れたライキピア地方で,乾期のさなかの昨年8月,マサイ人の牧童が何千頭もの家畜をつれて,白人所有の大規模ランチに侵入をはかり,一人が,急行した警察官に射殺されるという事件が起きた。その日からちょうど100年前の8月,当時のマサイ人指導者は植民地政府に土地の借地権を与える協定に署名し,肥沃なライキピアの地を去って南へと移動していった。マサイの牧童たちは,99年の借地権が期限切れとなったと主張し,白人所有地の返還を要求して,ランチに侵入したのである。白人所有者は,土地登記証書を手に,私有財産の不可侵を謳ったケニア憲法に依拠して,「不法侵入者」への厳罰を求めた。結局,侵入したマサイ人100人以上が逮捕され裁判にかけられた。本論文の目的は,このライキピアの土地の正しい所有老は誰かを考察することにある。そのために先住民が100年以上前に手放した土地に対して,今日なおも正当な所有者であることを根拠づける正統化の論理に対して検討を試みる。なかでも強力な根拠として流通する「真正な伝統文化」については,メラネシアにおける「カストム論争」を手がかりとして根源的な分析を加え,正統性を保証する新たな水準を導き出す。そして最後に,この新たな水準が,サイードやフーコーによって社会理論に浸透した「知の政治学」を超えた地平を切り開くことを示す。
- 2005-10-25
著者
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