漢字圏学習者の「の」の脱落における言語転移の様相 : 「の」「」「的」の対応関係に着目して
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概要
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本研究は「の」の脱落による誤用をターゲットとして言語転移の様相を探ろうとするものである。日本語学習者の名詞句における「の」の脱落は,複数の母語を対象とした作文及び発話データから,母語にかかわらず生じる誤用であることが明らかとなっているが,上のレベルになるにつれ漢字圏学習者により多く見られることが指摘されている。そこで本研究では韓国語と中国語を母語とする上級日本語学習者に対して文法性判断テストによる調査を実施し,日本語と同様に修飾部と被修飾部をつなぐ働きをする「 (韓国語)」「的(中国語)」の有無が,日本語でも母語でも必要な「一致」か,日本語では必要であるが母語では不要な「不一致」か,母語ではあってもなくてもどちらでもよい「任意」かという観点から,「の」の脱落に対する正答率の差を検討した。その結果,中国語母語話者は,「一致」が「不一致」「任意」よりも有意に高く,母語との対応関係が一致しているほど正しく判断していることが明らかとなった。一方,韓国語母語話者は「任意」が「一致」「不一致」よりも有意に高く,母語との対応関係以外の要因が関与している可能性が示された。韓国語では「任意」であるケースが日本語と比較して非常に多く存在することから,韓国語で「任意」の場合には日本語では「の」が必要であるとする,学習者なりの認知的判断が関与している可能性が示された。従来の「正と負の転移」の枠組みでは説明しきれない言語転移のメカニズムの一端として報告する。
- 2011-11-00
著者
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