地域社会と「戦争の記憶」 : 「戦争体験記」と「オーラル・ヒストリー」(<特集II>オーラル・ヒストリーと歴史)
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概要
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薄らいでゆく「戦争の記憶」が話題になっているが、戦場で死んだり生き残ったりした兵士たちの体験を抜きにして、市民として戦時期に苦しめられた人々の体験を憶えていればいいというものだろうか?この論文では、戦後社会において、「兵士の戦争の記憶」と「市民の戦争の記憶」とのあいだに生じたひとつの忘却を指摘することを試みる。1つの戦争が終わると常に次の戦争が想定されていたような戦前社会では、兵士の戦争体験の継承は社会にとって重要な意味を持つ。しかし、文字通りの「戦後社会」では、「兵士の戦争の記憶」の社会的な地位が、戦前のそれとは変化するだろう。対照的に、「冷戦」という文脈を得た「市民の戦争の記憶」は、「戦争の記憶」の中心を支えることになる。戦争体験をめぐる「戦争の記憶」のこのような歴史性を明らかにするには、国家やマス・メディアが媒介する集合的記憶を、方法論的な見地からできる限り相対化する必要がある。本論文では、その目的のために「戦争の記憶における<地域>」という分析枠組みを用意し、探究を進めるためのいくつかのアイディアを披露した。それは、(1)出征から帰郷という移動経験への注目、(2)軍隊と地域性/地域社会との関係という視点の重要性、(3)自治体史誌における戦没者名所や忠魂碑と地域社会のアイデンティティの関係といった諸テーマである。
- 2008-05-24
著者
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