ボツリヌス毒素複合体の構造と機能
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概要
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ボツリヌス神経毒素(BoNT)は,自然界最強の毒素であり,コリン作動性シナプスからの神経伝達物質放出の阻害によって,ヒトや動物のボツリヌス症として知られる致死的な疾病を引き起こす。ボツリヌス菌株は,BoNT の抗原性の違いにより,A から G 型の血清型に分類され,A,B,E および F 型はヒトに対して,一方 C および D 型は動物や鳥類のボツリヌス症の原因物質とされている。全ての血清型の BoNT には各々の無毒成分タンパク質が非共有結合的に会合して大きな毒素複合体(TC)を形成する。培養液中では,BoNT と非毒非血球凝集素(NTNHA)の複合体(M-TC)とさらに M-TC に 3 種の血球凝集素(HA;HA-70,HA-33 および HA-17)が会合したより大きな複合体(L-TC)が存在する。これらの TC には,構成成分のいくつかには特定の部位には分子内切断(nick)があるため,SDS-PAGE 上で多数のバンドが出現する。C および D 型のボツリヌス菌株から毒素の精製中に著者らは偶然にも無傷の TC 種を産生する特異的な D 型菌 4947 株(D-4947)を見出した。 本論文では,主に特異的 D-4947 の TC に関する主要な知見が述べられている。(1)C および D 型TC 構成成分(BoNT,NTNHA および HA-70)における菌体プロテアーゼあるいは自発的切断によるニック部位が特定された。(2)分離精製した各 TC 構成成分による L-TC の再構成に成功し,その形成機構を明らかにし,各構成成分遺伝子の発現が調べられた。(3)各種培養細胞系を用いて,C および D 型 L-TC の HA-33 が小腸内皮細胞透過において本質的な役割を果たしていた。(4)電顕観察および HA-33/HA-17 複合体の X 線結晶解析により,個々のサブユニットが会合する経路と 14 量体からなる L-TC 各サブユニットの立体的配置を初めて提唱した。(5)消化酵素耐性実験から,NTNHA が BoNT を消化から保護している決定的な証拠を提供した。また,NTNHA 分子は 1 個の亜鉛分子を含み,BoNT との構造的類似性が認められ,X 線小角散乱分析から NTNHA の水溶液中での動的構造の性質が示された。
- 2013-03-18
著者
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