マラマッド作品と伝記的要素の関連性
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概要
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常に社会において周縁化された人物を描いてきたユダヤ系アメリカ作家、バーナード・マラマッド(Bernard Malamud 1914-1986)の伝記は長く書かれなかった。作家自身が作家の実人生と作品との関わりを最小にしようとした意味で、世紀末を風靡した文学研究者の主張である「作者の死」を実践した作家とも言える。マラマッド自身はユダヤ性よりもアメリカ人として成長したと強調し、批評家は作家の意図通り類型的な東欧からの貧しいユダヤ移民がアメリカ文化の中で成長したマラマッド像をイメージした。しかし、フィリップ・ディビスによる『バーナード・マラマッドーある作家の生』によれば、少年マラマッドはブルックリンのユダヤ系アメリカ人社会の中にさえ「所属」する揚所を確保できず、統合失調を発症して自殺未遂を図り、2年後精神病院内で自殺した母の自殺未遂場面を発見するという傷を負っていた。マラマッドが周縁化された人物の第二のやり直しの機会をしばしばテーマとして描いたのは、彼がまさに個人的な背景から必要としたものである。例として『新しい生活』を分析してみるとマラマッドの主張通りアメリカ文学伝統の中に紛れもなく存在する作品であると同時に、伝記の記述による裏付け作業によって初めて解読できる部分もあることがわかる。ディビスの仕事は、今後のマラマッドの作品研究の上で大きな意味があると思われる。
- 2009-03-15
著者
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