ドイツにおけるワイン農家レストランの歴史的発展と役割の変化 : バーデン・ヴェルテンベルク州におけるベーセンの事例を手がかりに
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概要
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BesenはBesenwirtschaftenの略語で、日本語では「ベーセン」と表記する。Besenは日本語に訳せば箒(ほうき)の意味で、ワイン農家が玄関前や看板の飾りに使われている。ワインのほかにシンプルな伝統食の提供も許されていることから、ワイン農家レストランともいえよう。これはドイツに存在するワイン直売の特別な形態であり、地域によって呼び名が異なるがBaden-Wurttemberg州のWurttemberg地方では一般的に使用されている。この伝統は紀元800年頃にカール大帝によって初めてワイン農家に自家の居間でワインを販売する権利が与えられた時期からとされ、現在に至っている。本稿ではドイツ全体のワイン生産と消費の状況を概観した上で、特にBesenの歴史的発展と役割変化について文献資料を用いて整理する。また、2005年から2008年の夏の間に行われた聞き取り調査から得たデータを中心にBaden-Wurttemberg州Wurttemberg地方におけるワイン農家がかかわっているいくつかの協同組織の形成と役割について概説し、さらに3つのBesen農家の事例を紹介し、その成功の鍵と地域の文化的特徴によって支えられてきた要因を分析する。何世紀にもわたって貧困のシンボルであったBesenの役割は大きく変化してきている。その歴史的発展過程において、ワイン農家の協同組合の役割が非常に大きい。貧困の脱出においてだけではなく、レストラン、バー、パブなどワインを取り扱う業者との間の合意の成功を導いた。そのことによって、結果的にBesen農家、ワイン協同組合、飲食業界が暗黙の了解のように地方ワインの販売に協力することになっている。今日において、経済のグローバル化の影響を受けつつも、なお8割近いワインの地域内消費が実現されている。現在もBesenは依然としてワイン農家の販売戦略の一つである。しかし、その地域におけるコミュニケーションの社会的な場として、またくつろいだ雰囲気が醸し出されている場としての役割が見直され、それによって、観光の場として生かされているように見受けられる。したがって、Besenは伝統文化の象徴とワインの直売としての販売形態といった新しい意味合いを有するようになり、グローバルゼーションに対応するローカルゼーションとしての存在意義も注目されるべきではないかと考えられる。農家レストランが増えつつある日本にとっても、地域に根付き、伝統文化を生かした、地域活性化および地域間交流を志向する本事例のあり方から多くの示唆を得ることができるのではなかろうか。
著者
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劉 文静
岩手県立大学共通教育センター
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劉 文静
Center for Liberal Arts Education and Reseach, Iwate Prefectural University
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