河川環境事業としての「多自然型川づくり」 : 1970年代以降における建設省・河川環境行政史(<特集>コモンズとしての森・川・海)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ドイツやスイスにおいては、1970年代後半から、水質問題を下水処理施設によって解決することを入り口として、河川に水を取り戻し、さらには河川をコンクリート漬けの川から豊かな生態系をもった「川らしい川」へと蘇らせる「近自然河川工法」が盛んに行われている。人間中心主義にもとづく近代技術主義からの脱皮が図られているのである。一方、1990年代の日本においても、建設省がこの「近自然河川改修法」を「多自然型川づくり」と呼び、率先して導入しようとしている。しかしこの「多自然型川づくり」は、近代技術主義的な「機械論的河川観」のいわば極致とも言える「大規模放水路」や「地下河川」あるいは「地下貯水池」等の建設といった大規模施設型の治水構想と同時並行的に進められている。ところで、1980年代初頭には、従来の「機検論的河川観」による治水方式に対する反省にもとづいて、狭い「河道」やそこに設置される「施設」に依存するのではなく「流域全体」を視野に収める形で治水を進めることを目的として、脱近代志向の「総合治水対策」が策定されていた。上記の大規模施設型治水構想はこれに全く逆行するものである。こういった意味において、日本における「多自然型川づくり」は、近代技術主義の克服を目指した「総合治水対策」の延長線上にあるものではなく、河川環境事業という名の文化事業、言い換えれば「親水公園」的なものの建設の段階にとどまっているにすぎないと言えよう。
- 環境社会学会の論文
- 1997-09-20
著者
関連論文
- ボランティア団体のニーズと大学生の意識との間の乖離
- 地方分権時代における市民活動と大学の連携
- 戦後日本のダム開発とナショナリズム : ナショナリゼーション論にもとづく分析(現代的ネットワークにもとづく流域社会の再構築の可能性 : 京都府美山町を事例として,I共同研究)
- 2003龍谷大学 国際社会文化研究所シンポジウム : 日本のアジア報道・アジアの日本報道
- 流域社会への視座 : ナショナライゼーション論とリスク論を中心として
- 現代的ネットワークにもとづく流域社会の再構築の可能性 : 京都府美山町を事例として
- はじめに--環境のメディア化を考える (特集 環境メディアの誕生と社会)
- ポストモダンの両義性と環境社会学--ラウンドテーブル「環境社会学と社会学理論」を振り返って (ラウンドテーブル報告 環境社会学と社会学理論--対話の試み)
- 媒介者たちの社会学はどこへ?--フィールドとしての社会学 (特集 現代社会の危機と社会学の役割)
- 河川の環境社会学へ(Doing Sociology)
- 古都税問題の宗教・政治社会学 (宗教の社会学)
- 古都税問題へのアプロ-チ--パ-スペクティブのtriangulation
- 婦人一時保護施設の機能--スタッフと入所者との問題認識をめぐって (婦人一時保護施設入所者の経歴分析)
- マルクスの「人格化」概念の考察--物象化論の忘れられた側面
- 二つの長良川河口堰建設反対運動--産業間対立からポストモダンの自然環境保護運動へ (特集 川にかかわる--日本各地の事例から)
- 「他者」の論理構造 : 物象化論と役割論の対話をめざして
- 「他者」の論理構造--物象化論と役割論の対話をめざして
- 祭りのオーソプラクシー化と社会変動 : 曳山祭を事例として
- 祭りのオーソプラクシー化と社会変動 : 曳山祭を事例として (「新たな観光」の可能性と地域社会)
- 河川環境事業としての「多自然型川づくり」 : 1970年代以降における建設省・河川環境行政史(コモンズとしての森・川・海)
- 小特集 流域の環境保全(特集・小特集のことば)
- 河川の環境社会学・試論(1)
- 媒介者たちの社会学はどこへ? : フィールドとしての社会学(現代社会の危機と社会学の役割)
- はじめに : 環境のメディア化を考える(環境メデイアの誕生と社会)