オオルリシジミの生息地におけるチョウの種多様性に及ぼす放牧の影響
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概要
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絶滅危惧種であるオオルリシジミの生息する阿蘇地域の草原は,毎年,野焼きと放牧が継続されている草地が多い.本研究では,本種の生息する阿蘇地域の草原におけるチョウ相を解明するとともに,放牧の有無や放牧圧が本種を含むチョウ相に及ぼす影響について,オオルリシジミを保護しつつその他のチョウへの影響をできるだけ与えない放牧圧とは何かを明らかにすることを目的としてチョウ相を調査し,次のような結果を得た.(1)阿蘇地域の草原において調査期間中に確認されたチョウは,10種の希少なチョウを含み5科64種であった.(2)草原性種の優占種は,オオルリシジミ,モンキチョウなどであった.一方,森林性種の優占種は,ルリシジミ,キチョウなどであった.(3)放牧の有無がチョウ類群集に与える影響を調べたところ,Shannon-Wiener関数(H')に大きな違いは見られなかったが,種数は休牧区のほうが多く,Simpsonの多様度指数(1-λ)は休牧区の方が高かった.また,休牧区では森林性種の割合が高く,放牧区では草原性種の割合が高い傾向がみられた.(4)放牧圧が低いとシジミチョウ科の優占種が草原性種のオオルリシジミから森林性種のルリシジミに変化する傾向がみられた.(5)放牧圧の違いがチョウ類群集に与える影響を調査したところ,Shannon-Wiener関数(H')に明らかな傾向はみられなかったが,Simpsonの多様度指数(1-λ)は放牧圧が増加するほど低下する傾向を示した.(6)草原性の希少種の種数は放牧圧によって変化しなかったが,休牧区の森林性の希少種は低放牧圧区,慣行的放牧圧区および高放牧圧区より多かった.(7)オオルリシジミの個体数は,休牧区,低放牧圧区,慣行的放牧圧区の3区で5月にチョウ類総個体数の90%を占めていた.これらの結果から,阿蘇地域のオオルリシジミの生息地における放牧圧の違いは,チョウ類の種構成に大きな影響を及ぼしており,様々な放牧圧の草原が存在することは,同地域のチョウ相を保全する上で重要であることが示唆された.
- 2011-05-17
著者
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村田 浩平
School of Agriculture, Tokai University
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松浦 朝奈
School of Agriculture, Tokai University
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松浦 朝奈
九州東海大学農学部農学応用植物科学科
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松浦 朝奈
School Of Agriculture Tokai University
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村田 浩平
School Of Agriculture Tokai University
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