実有説批判とアーラヤ識の導入 : 世親にとっての経量部の一考察
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概要
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世親にとっての経量部を考える際,注釈者や衆賢の記述に頼るのではなく,世親自身が経量部説と明示している説に焦点を絞ることも,一つの穏当な方法であろう.その場合,『倶舎論』に登場する十七(あるいは十六)の経量部説のうち,およそ十までが有部の実有説に対する批判であることが注目される.その実有説批判,特に,命根と衆同分か実有であることの批判は,アーラヤ識の存在論証において重要な意味を持つことが,『成業論』『縁起経釈論』の記述により,知られる.更に言えば,後代のアビダルマ文献は,アーラヤ識の存在論証に用いられるのと類似の論法も用いて,命根と衆同分の実有を主張している.また,『倶舎論』以降で世親が経量部の名を出すのは『成業論』においてのみであるが,周知のように,その文脈は,アーラヤ識を導入するというものである.以上のことからすれば,世親にとっての経量部説は,実有説批判を介して,アーラヤ識の導入へ導くという意義を持ったのではないかと考えられる.
- 2011-03-25
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