ゴイシシジミ幼虫の物質収支と食物利用効率
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概要
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ゴイシシジミの幼虫は,関東地方の平野部では主にアズマネザサに寄生するササコナフキアブラムシを食物としている.このアブラムシの個体数は,季節や年により大きく変化し,ゴイシシジミの幼虫はしばしば食物不足に陥る.本研究では,ゴイシシジミ幼虫の物質収支および食物摂取の成長への影響について調べると共に,食物利用効率を求めて飽食条件下と制限食条件下で比較し,さらに他の昆虫との比較も行った.野外より2,3齢幼虫を採集し,4齢になるまで十分な食物を与えて飼育した.4齢幼虫は1頭ずつ飼育瓶に入れ,16,19,22,25℃の温度条件下で,食物量を2段階(飽食,制限食)に分けて飼育した.物質収支として摂取量,排出量,同化量,成長量,維持による消費量を,食物利用効率として消化効率(AD),摂食物の転換効率(ECI),消化物の転換効率(ECD)を乾物重量を基に求めた.また,25℃において4齢幼虫に間隔をおいて食物を与え,食物供給と成長の関係について調べた.飽食条件下では,4齢期にぱ乾燥重量にして21〜44mgのアブラムシを摂食した.これは野外で最も多くみられる小型のサイズのコロニーにして6〜13個に当たる.また制限食条件下では,食物量が飽食条件の約3分の1であったが,ほとんどの個体が成虫まで発育した.AD,ECI,ECDは,制限食下の方が飽食条件下より全般に高い値を示した.また,食物利用効率の比較で一般に用いられるECIは,ゴイシシジミで約30〜40%であり,植食性昆虫の約10〜20%に比べ高い値を示した.食物供給に間隔を与えた場合,絶食期間には1日当り約10〜20%の体重の減少がみられた.飽食条件下では,4齢幼虫は3日で最大体重に達し,4〜6日で蛹化した.制限食条件下でも幼虫期に大きな延長はみられず,体重が15mg付近に達すると蛹化する傾向があり,その時点での体重により変形した蛹を形成することもあった.ゴイシシジミの幼虫にとって食物供給が不安定な場合には,当てにならない食物を求めるよりは,蛹化してしまう方がエネルギーの消費が少ないと思われる.上記のようなゴイシシジミ幼虫の食物利用と成長にみられる生理的特性は,量的に不安定な食物に依存している種にとって重要な一適応手段であると考えられる.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1990-12-20