ゴイシシジミの成虫の分散と新生息地の開拓
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概要
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ゴイシシジミの成虫の分散と新生息地の出現についての研究を,1982年に茨城県つくば市内のアカマツ林,畑,水田,宅地がパッチ状になっている調査地で行った.調査地内にゴイシシジミの大きな生息地であるメインサイトと,6か所のサブサイトを設けた.各々のサイトで成虫の翅の裏面に油性の極細マーカーを用いてマークをし,成虫の移動を調べた.サブサイトの内2か所はゴイシシジミ,ササコナフキアブラムシとも生息していた場所,1か所はアブラムシのみ生息していた場所,他の3か所は人為的にアブラムシを移植して作った場所である.いずれもアカマツ林で,アブラムシは林床のアズマネザサに寄生していた.サブサイトにおいて,メインサイトからの移動個体,及び出発地は不明であるが明らかに移動してきたと考えられる個体が捕獲され,ゴイシシジミの成虫がアブラムシの生息地を求めて移動することが確かめられた.またゴイシシジミがもともと生息していなかったサブサイトで,移動個体の子孫と考えられる個体の発生が確認された.捕獲された移動個体は雌が雄より多かった.ゴイシシジミの食物であるアブラムシの量は季節により大きく変化し,全く食い尽くされてしまうことも稀でない.このように量的に不安定な食物を利用しているゴイシシジミにとって,成虫のアブラムシ生息地への移動は,個体群を維持して行くための一つの重要な手段と考えられる.また成虫の移動は,アブラムシの移動と共に,新生息地の出現の機構でもあると思われる.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1988-12-20