キチョウにおける産卵植物と幼虫の餌利用
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
キチョウにおける食餌植物の餌としての価値について,幼虫の飼育実験から検討した.また,産卵植物の選好性について,野外における産卵植物の調査と♀の産卵行動の観察から調べた.飼育実験では,幼虫の成長日数,物質収支,餌の利用効率について調べた.食餌植物として,メドハギ,ヤマハギ,ネムおよび野外観察において産卵中のメスがよく止ることが観察された.ヤハズソウ,コマツナギの5種のマメ科植物を用いた.ヤハズソウ,コマツナギを与えた場合,幼虫はごく僅かしか摂食せず,すべて1齢で死亡した.他の3種を与えた幼虫はすべて順調に生育した.このうち,ヤマハギを与えた幼虫では,他の2種を与えた幼虫に比べ,摂食物の転換効率が高く,成長も若干速く,成長量も大きいことから,ヤマハギは,他の2種に比べ餌としてやや優れると思われる.しかし,その差は小さく,メドハギ,ネムも餌として,十分キチョウの生育を支えると考えられる.野外調査は,茨城県新治郡桜村,筑波大学構内の草地で1981年8月〜9月に行った.産卵植物の調査ではメドハギ,ヤマハギ,ネムの3種の植物より卵が発見され,メドハギで最も多く発見された.調査地域内では,キチョウは若葉にのみ産卵することが観察されたので,これら3種の植物の産卵に適した部分を好適な産卵場所として比較した.3種の植物間では,株当りの産卵率には差がなかったが,好適産卵場所に対する産卵率では差があり,メドハギで一番高率であった.♀の産卵行動の観察では,産卵中の♀を追跡し,止った植物,止った回数,産卵したかどうか,産卵数について調査した.産卵行動中の♀は,多くのマメ科植物に止り,とくに細長く,草地から上へ突き出た植物や枝によく止る傾向がみられた.実際に産卵が観察された植物は,メドハギ,ヤマハギ,ネムの3種であった.メドハギに多く止り,多く産卵する傾向がみられた.調査を行った付近では,草地,松林がパッチ状に分布している.メドハギは草地に多く,ヤマハギとネムは草地よりむしろ林縁や林内の空地に多く分布する.キチョウは草地ではメドハギを多く利用する傾向がみられるが,3種に産卵する習性は,産卵の機会を増加させると共に,異なる環境を生息場所として利用することを可能にすると考えられる.
- 1984-09-20