宮崎県高千穂町における肉用牛産地の成長と持続的発展への課題 : 2000年代初頭の和牛価格高騰期に注目して
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿では,輸入農産物をめぐる安全性や産地偽装などの問題を背景とした国産需要の高まりが,国内産地の回復や活性化に結びついているのかという問題意識の下で,アメリカ合衆国でのBSE問題の発生により輸入量が急減し価格高騰を経験した牛肉に注目し,近年の肉用牛産地の成長実態と持続的発展への課題について検討した。その結果,事例とした宮崎県高千穂町では,以下のことが明らかになった。まず,高千穂町では長らく減少傾向にあった肉用牛飼養頭数が,1990年代後半より増加に転じたが,この要因として,自治体と農協による増頭運動が1998年から始められ,専業農家の規模拡大と高齢農家の離農の引き留めが図られたことや,2002年以降の和牛相場の上昇が農家の規模拡大意欲を持続させたことが明らかになった。次に,増頭核心地域における農家調査からは,(1)各農家の飼養規模は,後継者のいる専業層では20頭以上,壮年層のいる第1種兼業農家では10頭前後,高齢者のみの農家では4頭以下と,概して労働力基盤によって規定されていること,(2)大半の農家で兼業経験があり,特に建設業への従事が多いこと,(3)大規模層ほど借地も含めた経営耕地が大きく飼料生産が盛んで,中規模層では椎茸や野菜などとの複合経営が盛んなこと,(4)増頭の中心になったのは後継者のいる専業農家だったが,兼業農家でも壮年層のいる農家を中心に小規模な増頭がみられたこと,(5)2008年後半からの子牛相場の下落にもかかわらず10頭前後の農家層では増頭意欲が強いこと,の5点が明らかになった。さらに,今後の持続的発展への障害として,子牛相場の下落・兼業機会の減少・規模拡大への資金不足などが明らかになったが,これを緩和するために農協は,子牛相場の下支えと低コスト経営の促進を目的に,肥育センターの拡充と大規模放牧場の造成に着手した。今後は増頭意欲のある中規模農家の育成が鍵となってくるが,これには粗飼料の確保に向けた農地流動化の一層の推進と行政による畜舎増築への資金援助が期待される。
- 2010-04-28
著者
関連論文
- 宮崎県日南市南郷町における大規模和牛繁殖経営の成長と今後の振興課題(口頭発表要旨,2010年度春季学術大会発表要旨)
- 宮崎県高千穂町における肉用牛産地の成長と持続的発展への課題 : 2000年代初頭の和牛価格高騰期に注目して
- 食の安心・安全問題と国産レモン生産の回復
- 寧夏回族自治区における農業・農村の変貌 (寧夏巡検特集号)
- 宮崎県高千穂町における肉用牛産地の成長と持続的発展への課題 : 2000年代初頭の和牛価格高騰期に注目して
- 書評 松村祝男:果樹作と庶民と地域の近代化--河内みかん発達史
- 戦後の日米間における柑橘貿易の展開と両国産地に及ぼした影響
- 熊本市河内町におけるミカン産地の維持とその要因 : 集出荷業者の果たしてきた役割に注目して
- 1990年代以降のアメリカ合衆国カリフォルニア州における柑橘産地の変貌--日本のオレンジ輸入自由化と絡めて
- わが国における輸出向けミカン生産の現状と拡大への課題
- わが国における輸入自由化以後の生鮮オレンジ流通の変化
- わが国における輸入自由化後10年間の生鮮オレンジ流通の変化
- 討論の概要とオーガナイザー所見([ラウンドテーブル 3]グローバル化に直面する第1次産業と地域(2),経済地理学会第55回(2008年度)大会)
- 趣旨説明([ラウンドテーブル 3]グローバル化に直面する第1次産業と地域(2),経済地理学会第55回(2008年度)大会)
- 書評 荒木一視:アジアの青果物卸売市場--韓国・中国・インドにみる広域流通の出現
- 戦後わが国における政策主導型みかん産地の崩壊とその要因 : 大分県東国東郡国東町を事例に
- 食の安全・安心問題と国産レモン生産の復活(2月例会,関東支部)
- 近年の和牛価格高騰下における南九州肉用牛産地の成長と持続的発展への課題(3月例会,西南支部)
- 趣旨説明([ラウンドテーブル 2]「グローバル化に直面する第1次産業と地域」,経済地理学会第54回(2007年度)大会)
- 戦後日本における柑橘農業の立地展開(5月例会)(西南支部)
- 北日本の卸売市場における青果物流通の現状と系統外出荷組織の役割(関西支部 6月例会)
- 近年における柑橘集出荷業者の地域的動向 : 熊本市旧河内町を事例に(西南支部)
- 討論の概要とオーガナイザー所見([ラウンドテーブル 2]「グローバル化に直面する第1次産業と地域」,経済地理学会第54回(2007年度)大会)
- 高柳長直著, 2006, 『フードシステムの空間構造論-グローバル化の中の農産物産地振興-』, 筑波書房, 2006年, 247頁, 3675円
- 市場構造の変貌とみかん産地の盛衰
- 瀬戸内しまなみ海道開通と沿線地域の動向
- 鳥取県大山町における農牧業と観光業を柱とした地域振興策の展開
- 北海道十勝地方における大規模肉用牛飼養の発展と地域的特徴(12月例会,北東支部)
- オレンジ果汁輸入自由化の産地への影響
- ハウスみかん栽培の発展とその意義--愛知県蒲郡市を事例に
- 西日本の柑橘栽培--愛媛県における品種開発と産地振興 (特集 くだもの--味と地域性)
- 農林業 ([人文地理]学界展望(2010年1月〜12月))
- わが国における輸出向けミカン生産の現状と拡大への課題
- わが国における輸出向けミカン生産の現状と拡大の可能性 (特集 21世紀の農業)
- 過疎山村における和牛繁殖経営の役割と展望--島根県邑智郡瑞穂町を事例に
- 青果物の卸売市場流通の現状と系統外出荷組織の役割--北海道・東北地方のミカン流通を事例に
- プロサッカーチームの誘致と地域振興--静岡県磐田市を事例に
- 瀬戸大橋開通と中四国地方における物流拠点の再編--岡山県総合流通センタ-を事例に