日本産Monochroa属の再検討(鱗翅目,キバガ科)
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概要
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Monochroa属は全北区で約40種分布することが知られている.このうちの6種が日本に分布することが最近になって分かってきた.今回日本産の本属標本250個体以上を観察し,更にヨーロッパ産の各種標本と見比べた結果,本邦から2新種を含む11種を見いだすことが出来た.2新種M.kumatai,M.pallidaのうちの後者は,Sakamaki(1993)でPaltodora cytisellaと誤同定されたものであるが,Sattler(1992)の取り扱いに従い,PaltodoraをMonochroaのシノニムとして扱った結果,本新種はMonochroa属に含むべきものであると判断された.また,4既記載種M.pentameris,M.leptocrossa,M.hornigi,M.divisellaが本邦より新たに記録された.これらのうちM.pentamerisとM.leptocrossaは本研究にて新たにAristotelia属より移動したものである.[属の特徴]Monochroa属は,Argolamprotes,Eulamprotes,Daltopora属などに近縁とされている.本属の雄交尾器はこれらの近縁な他属に比べて属内で構造の変化が著しいが,以下の形質を兼ね備えることで他属から見分けることが可能である.Valvaは先端に向かって細まり,その内面には多くの長い刺毛を備える;harpeは多かれ少なかれ丸く,膨らむ;sacculusは指状に伸長する;aedeagusには多くの細かなcornutiを備える.また各種の同定にあたってはFigs 9,11に示すようにlabial palpusや触角の色彩パタンも有用である.[各種の特徴]Monochroa kumatai n.sp.(新種)(Figs 1,7-A,9-A,11)クマクシラホシキバガ(新称)外見上labial palpusが末端節先端以外すべて黒いことで日本産同属他種から容易に区別が可能.本種はヨーロッパ産のM.inflexella,M.lutulentellaおよびM.elongellaに類似するが,単眼が消失していることでM.lutulentellaとは見分けられ,雄ならば交尾器aedeagusのcornutiがM.inflexella(0.05mm)より短くM.elongella(0.015mm)より長いこと(本種では0.03mm),雌ならばsignum上の尖突起が頭部側の縁に並ぶことで見分けられる.寄主植物は不明.北海道と本州に分布し,成虫の出現期は7月中旬から8月中旬.Monochroa suffusella(Douglas,1850)(Figs 7-B,9-B,11)イグサキバガ(新称)前翅の基部から前知長の2/3の前縁上に黒褐色の斑紋が現れることで同属の他種から区別される.本種は旧北区全体に広く分布し,日本でも北海道と本州に分布する.寄主植物はカヤツリグサ科のワタスゲ属(Eriophorum)とスゲ属(Carex)が記録されているが,今回新たにイグサ科のイ(Juncus effusa var.decipiens)も寄主植物であることが分かった.幼虫は春に寄主植物の茎に潜っており,成虫は6月中旬から7月に見られる.Monochroa subcostipunctella Sakamaki,1996(Figs 7-C,9-C,11)ニセイグサキバガ(新称)前種に近縁と思われるが,基部から前知長の1/3のSc脈上に明瞭な黒い斑紋が現れることで前種とは容易に区別できる.北海道と本州に分布.寄主植物はイグサ属(Juncus sp.)で幼虫は前種と同様に春に茎の中から見つかるが,成虫の出現期は,7月の中旬から8月の初旬である.Monochroa divisella(Douglas,1850)(Figs 2,7-D,9-D,11)(日本新記録種)アヤメキバガ(新称)前翅地色のcosta側2/5が麦わら色でdorsum側3/5が茶褐色に明瞭に分かれているという点で他種からの区別は容易.ヨーロッパから日本まで旧北区に広く分布し,寄主植物はアヤメ属(Iris spp.).幼虫は前年秋に寄主植物の葉に潜り,球根またはその周辺で幼虫越冬.翌年春に蛹化し,成虫は室内飼育では5月下旬から6月中旬に羽化.Monochroa cleodora(Meyrick,1935)(Figs 7-E,9-E,11)ウスキマダラキバガ外部標徴では次種との区別は困難.雌交尾器のductus bursae内に薄くキチン化した筒状構造があること,signum上の尖突起が先端で4叉していることで同属他種との区別が可能である.寄主植物は不明.本州,四国,九州に分布.成虫は7月下旬から8月下旬まで出現.Monochroa cleodoroides Sakamaki,1994(Figs 7-F,9-F,11)ヒメキマダラキバガ(新称)外部標徴では前種との区別は困難.雌交尾器のcestumは長く伸長し,前種のような筒状構造は無い.Signum上の尖突起は先端で丸く途切れることで同属他種との区別が可能である.寄主植物は不明.本州,九州に分布.成虫は6月中旬から7月下旬まで出現.Monochroa japonica Sakamaki,1996(Figs 8-A,9-G,10,11)ミゾソバキバガ(新称)前述の2種に酷似するが,前翅の地色が前述2種では白色であるのに対し,麦わら色から褐色であることで判別は容易.北海道,本州,九州に分布.寄主植物はミゾソバ(Polygonum thunbergii).幼虫は前年秋に寄主植物の茎に潜り内部を食害した後,その場で幼虫越冬.晩春に蛹化し,成虫は6月下旬から8月初旬に出現.Monochroa hornigi(Staudinger,1883)(Figs 3-A,B,8-B,9-H,11)(日本新記録種)ホーニッヒチャマダラキバガ(新称)次種に酷似するがBruun(1957)の雌の交尾器の記述に拠れば第8腹節の腹面に次種のような極端なくぼみがないことで区別できる.ヨーロッパから日本まで旧北区全体に広く分布する.ヨーロッパでの寄主植物はPolygonun属(Polygonum spp.).北海道の札幌で7月初旬に1♂が採れている.Monochroa leptocrossa(Meyrick,1926),n.comb.(新結合)(Figs 3-C,D,8-C,9-I,11)ウスイロフサベリキバガ(新称)前種に酷似するが雌の交尾器の第8腹節の腹面に極端な三日月型のくぼみがあることで区別できる.分布はロシア(シベリア)と北海道.寄主植物は不明.北海道の幌加内町と積丹町で7月に1♀ずつ採集されている.Monochroa pallida n.sp.(新種)(Figs 4,5-A,8-D,9-J,11)マエチャキバガ本種は,Sakamaki(1993)でPaltodora cytisellaと誤同定されたものであるが,更に多くの標本を得て,ヨーロッパ産のM.cytisellaと比較したところ,単眼が痕跡的になっていること,labial palpusの第2節に毛髪状に発達した鱗片群がほとんどないこと,前翅の地色がより薄く前縁の中央部から翅頂部に向けて不明瞭ながら,暗褐色の帯が走ること,雄交尾器aedeagusのcornutiがM.cytisellaよりも少なく30程度であることなどから,新種であると判断された.寄主植物は不明.北海道と本州に分布し,成虫は7月中旬から8月下旬に出現する.Monochroa pentameris(Meyrick,1931),n.comb.(新結合)(Figs 6,8-F,9-L,11)イツボシマダラキバガ(新称)本種は前翅に4-6個の暗褐色の斑紋が現れ,外部標徴による判別は容易である.寄主植物は不明.本州(奈良県と広島県)で6月下旬から8月上旬にかけて成虫が採集されたのみである.
- 1996-12-01