日本三景・松島の観光振興と旅館経営者 : -大宮司雅之輔による観光鉄道への関与を中心として-
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概要
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旅館主が地域振興に大きく貢献した例は別府の油屋熊八など全国に数多く存在するが,油屋など一部の例外を除き必ずしも伝記等で事跡が解明されているわけではない。その背景には旅館業の多くが家業として個人経営の形態で運営され情報公開されることも少なかった事情もあろう。今回取り上げた日本三景の一・松島の旅館主・大宮司雅之輔の場合,ご子孫が遺品たる書画骨董等の一切を瑞巌寺宝物館ほかに寄贈され,学術的な調査を経て数次にわたり同館で特別展を開催されて来たという希有な事情にあった。本稿では同館のこれまでの研究成果や『松島町史』等に依拠しつつ,大宮司が地元の観光振興を願って運輸業を中核とする地元企業の多くに役員・大株主等として積極的に関与した企業者史的側面を明らかにしようとした。まず松島軽便鉄道では執行役員による仮装払込が発覚して免許失効,次に松島電車では経営不振のため債権者に軌条・車両等を競落され運行停止に陥るなど,彼が関与した企業の多くは期待された成果を生まなかった。相次ぐ不首尾にもかかわらず,彼はその後も松島を中心とする陸海の各種運輸業への関与を止めようとしなかった。一面で浮世絵等の収集家でもあった彼は独自の考え方に基づいて美術商から大量の書画を買い続けたという。関与した松島軽便鉄道,松島電車等はいわば習作の部類に入るわけだが,最後に本命視した宮城電気鉄道(現JR仙石線)は仙台と直結する本物の観光路線として成功を収めた。彼が損失も覚悟の上で最後まで地域の公益企業に関与をし続けた根底には明治末期宮城県から松島公園の委員を嘱託された際に開陳した彼の宿願たる松島振興策があったものと考えられる。なお地元銀行の再生等に私財を投じて尽力した大宮司の銀行家としての今一つの重要な側面の解明は別稿にゆずりたい。
- 2010-03-15
著者
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