債務承認契約の抽象性 : スイス債務法典一七条をめぐる Walter YUNG の訴訟法的抽象性理論
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
はじめに 本稿では、スイスのYUNG(Walter)、Latheorie de l'obligation abstraite et la reconnaissance de dette non causee en droit suisse, th. Geneve, 1930(一九三〇年のジュネーヴ大学博士論文『スイス法における抽象債務論と原因の記載なき債務承認』)を素材としつつ、債務承認契約を実体的抽象行為とする構成の批判を試みる理論を紹介する。我が国の私法学においては、独民(以下独民と略記)七八一条の債務承認契約のような法文が民法典には存在していないにもかかわらず、しばしば実体法上の抽象債務(以下無困債務ともいう) の存在は自明であり、それは契約自由の原則の帰結である、とさえ説かれる。しかし、他方では、〝原因必要主義causalisme立法の代表例であるフランス民法に限らずとも、「法律行為の有因・無印を決定するのは法秩序の作用である」ことが指摘され、日本私法においても、少なくとも二者間の合意において生じる債務負担行為については、債務のcauseからの実体的抽象(法律行為の要素から排除すること)を否認する理論を否定しつくせるものとは思われない。これとの比較で言って、債務承認契約の根拠条文を有するスイス債務法典のもとでは、あたかも実体法的抽象性肯定説が支配的であるかのように錯覚されるが、実は反対に否定説が通説で、抽象性とは訴訟法的意味を持つものと解されている。本稿では、スイス法の経験に学び、我が国私法における実体的抽象債務論批判へのささやかな足掛かりとしたい。
- 山形大学の論文
- 2001-08-31
著者
関連論文
- フランス法における公証差押禁止宣言 : 責任財産の限定と私的自治
- 信託法改正要綱に対する意見書
- 身体強制とフランス手形法(鈴木薫先生古稀記念号)
- 民法四四九条の成立と付従性なき人的担保
- 手形資金制度と民法五一三条二項後段における「為替手形」(下・完)
- 債務承認契約の抽象性 : スイス債務法典一七条をめぐる Walter YUNG の訴訟法的抽象性理論
- 手形資金制度と民法五一三条二項後段における「為替手形」(上)
- ディマンド・ギャランティーまたはスタンドバイ信用状におけるextend or payによる請求と発行委任契約の機能
- ポール・ジット『指図論』(2)(『ローマ法における更改および債権移転の研究』第四部)
- ディマンド・ギャランティーの自律性 : 手形との比較分析
- ポール・ジッド『指図論』(1)(『ローマ法における更改および債権移転の研究』第四部)
- 請求払補償の原因、自律性および濫用
- 振込取引における入金記帳の「抽象性」
- 抽象的債務負担行為小論
- フランス法における私的生活・名誉・情報保護(その1)
- 動産即時取得における正権原 : フランス法における仮想権原論
- 手形善意取得法理の基礎 : フランス法特にジュネーヴ統一法導入以前の破毀院判例を素材として
- 損害保険金請求権質入承諾の効力に関する一考察
- フランス法における指図(la delegation)の概念 : フレデリック・ユベール(ポワチエ控訴院付弁護士)『フランス法における指図に関する法律理論の試み』(一八九九年・ポワチエ大学博士学位論文)第二部『現行法』を素材として
- フランス商法典における手形喪失者による権利行使方法