「多文化共生」を内破する実践 : 東京都新宿区・大久保地区の「共住懇」の事例より(<特集>多文化共生と文化人類学)
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概要
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本稿の目的は、日本における多文化共生政策の問題点を検討し、多文化共生政策を「内破」する実践の可能性について考察することにある。日本では、近年、国が多文化共生政策を推進する動きが活発化している。本稿ではまず、多文化主義を唱える言説を人類学の立場から検討した米山リサの議論をふまえて、現在、日本において広がりを見せている多文化共生政策の問題点を検討する。米山リサは多文化主義を唱える言説を、企業的多文化主義、リベラル多文化主義、批判的多文化主義に大別した上で、批判的多文化主義の立場から企業的多文化主義とリベラル多文化主義の問題点について検討している。現在、日本において進められつつある多文化共生政策には一定の意義を認めることができるものの、それと同時に、米山が指摘する企業的多文化主義とリベラル多文化主義の問題点も見いだすことができる。しかし他方で、批判的多文化主義に対しては、必ずしもマイノリティの人々のエンパワーメントにつながらない可能性があるとの指摘がなされている。それでは、これらの議論をふまえた上で、多文化共生政策を内破する実践をどのように構想することができるだろうか。本稿では、そうした実践のひとつの可能性を、東京都新宿区・大久保地区を中心に活動してきた市民団体「共住懇」の取り組みに見いだす。大久保地区における多文化共生のまちづくりに取り組んできた共住懇は、その活動を継続するなかで、国籍やエスニシティだけでなく、ジェンダー、世代、職業、階層の差異、あるいは身体的な障碍の有無などに文化的差異を見いだす多次元的な文化観を提示するようになった。本稿の後半では、共住懇がこのような文化観を提示するに至るまでの過程と、それに基づく実践が胚胎する可能性について論じる。
- 2009-06-30
著者
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