マルク=アントワーヌ・ルグラン作 『現代のアマゾネスたち』 における異性装の演劇的戦略(学校法人京都外国語大学創立60周年記念号)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
十七,十八世紀のフランスでは,古代ギリシャ以来のアマゾネスの神話が再び脚光を浴び,しばしば文学作品やスペクタクルのテーマとなった。「女性の衣服の下に男性の魂を持った」と称される「戦う女」の原型であるアマゾネスの例に倣えば,女性による異性装(男装)は「男性の衣服の下に女性の魂を持つ」と喩えることができるだろう。1727年にコメディ=フランセーズで初演されたMarc-Antoine Legrand(1673-1728)の喜劇Les Amazones Modernes(『現代のアマゾネスたち』)は,この二つのテーマを一つの作品に取り入れた演劇史的にも稀有な戯曲である。Legrandは何を狙い,作品の中に異性装を取り入れたのか。本論では,Legrandの劇作の手法を通して,作者の演劇的戦略を分析していく。当時のコメディ=フランセーズは,ライバルであるイタリア人劇団と縁日芝居の劇団との競争にさらされ,観客の人気を集める作品を必要としていた。Legrandは,すでにイタリア人劇団の作風に倣った作品で成功を収めていた。Les Amazones Modernesには,もう一方の競争相手である縁日芝居のオペラ・コミックであるLesage及びD`Orneval作のL'Ile des Amazones(『アマゾネスの島』)の影響が強く見られる。Legrandはアマゾネスと架空の島という舞台設定を真似たのみならず,L'Ile des Amazonesには取り入れられなかったが他の縁日芝居で多く用いられた異性装を使い,芝居の喜劇性をより強化している。一方で,Les Amazones Modernesに色濃く見られる女性の権利主張は,イタリア人劇団のレパートリーの伝統でもあった。Legrandはオペラ・コミックの手法であるヴォードヴィルの歌詞にフェミニスト的主張を盛り込み,娯楽性とテーマ性の両立を可能にしている。
著者
関連論文
- 縁日芝居のオペラ・コミックにおける異性装の両義性とヴォードヴィルの効果について--『アルルカン いやいやながら娘にされ』(1713),『アルルカンになったコロンビーヌとコロンビーヌになったアルルカン』(1715),『ティレジアス』(1722)
- マルク=アントワーヌ・ルグラン作 『現代のアマゾネスたち』 における異性装の演劇的戦略(学校法人京都外国語大学創立60周年記念号)
- アルルカンを演じるコロンビーヌたち : ビアンコレッリ『アルルカンいやいやながら女にされ』, ルサージュ『アルルカンになったコロンビーヌ』考
- マリヴォー劇と変装
- マリヴォー『愛の勝利』にみる男装のヒロインの系譜と変容
- i-Podで何ができるか? : 携帯型語学学習の可能性(学校法人京都外国語大学創立60周年記念号)
- ピロン『ティレシアス』におけるメタシアター的異性装
- マリヴォー『贋の侍女』『愛の勝利』における男装のヒロイン--女性による女性の誘惑のディスクールについて
- 十八世紀フランス演劇における異性装の性的両義性批判