邦銀の低利鞘とゲーム理論
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概要
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本稿は、銀行の貸出金利設定行動を、ゲームの理論を応用したモデルを用いてシミュレーションしたものである。銀行にドライ型(米銀をイメージし、個々の取引からの利益を重視する銀行とした)とウエット型(邦銀をイメージし、長期的な対顧客取引を重視する銀行とした)があるとする。ドライ型は当期の利益の最大化を目指すものとする。ウエット型は、景気局面による借り手の信用コストの変動を金利設定に反映させないものとし、当期の利益に加えて顧客数の増加も目標の一つとして金利設定を行なうものとした。銀行数は二行とし、互いに相手の行動パターンを知った上で相手の出方を予測しながら自らの金利設定を行なうとして、シミュレーションを行なった。結果の第一は、二行ともドライ型である場合(米国市場を想定)と二行ともウエット型である場合(日本市場を想定)では、後者の方が金利が低く銀行の利益が小さくなる可能性があるというもので、邦銀の行動パターンが低利鞘の一因である可能性を示唆している。結果の第二は、ドライ型とウエット型が共存する場合には、ウエット型の方が低い金利を提示し、結果として高い利益を上げるというものである。ウエット型が主である日本市場においては、ある銀行がドライ型への転換を決意しても成功せず、ウエット型中心の構造が持続するというメカニズムが示唆される。なお、共存モデルにおいてウエット型の方が利益が大きいということは、ドライ型の方が合理的で優れているとは限らないことを示唆しており、興味深い。