高齢化に伴う知的低下の予防と生き方 : 2002年度調査結果から
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概要
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本研究では,65歳以上の高齢者を対象に,知的水準,日常生活行動傾向,生きがい満足度,ソーシャル・サポート,健康度基本診断結果の関係を確かめると共に,痴呆予防づくり活動の効果を検討した。調査対象者は,165名(男性40名,女性125名)である。まず,生きがい満足度調査10項目の因子分析を行った結果,2つの因子が抽出された。第1因子は,安定満足の因子であり,第H因子は,積極満足と命名される内容であった。それらの信頼係数は,それぞれα=.902,α=.852であって,ともに高い信頼性が確認された。両因子問の相関は,r=.625であった。反応の性別比較では,女性の方が長寿で回答者数も多く,日常生活行動については,5つの領域のうち,3領域において有意な違いがあり,1領域でその傾向がみられ,女性の方がより活動的で積極的であることがわかった。女性は男性より,家庭における日常生活において積極的で,活動的であり,生き生きとしていると思われる。女性の方が男性より生きがい満足度が有意に高いことがわかった。知的水準についても女性の方が男性より有意に高いことがわかった。この他,基本健康度の調査として血圧,脂質,貧血の測定を行い,また,ソーシャル・サポート調査を行って,その結果の性差を検討したが,それらには有意な性差はなかった。以上のことから,女性が男性より有意に高く知的水準を保っているのは,女性が男性より,日常生活において積極的で,活動的であり,しかも,生きがい満足度がより高いことが原因ではないかと推測された。次に,反応を年齢別に比較すると,日常生活行動調査結果,生きがい満足度得点,かなひろいテスト得点,血圧,脂質,貧血の調査結果,ソーシャル・サポート得点などについて比較検討した。日常生活行動については,5つの領域のうち,家庭生活における役立ち感の1領域でだけ年齢が高くなるに従って低くなる傾向がみられた。このことは,日常生活の行動は習慣化されていて,個人差が大きく,年齢が高くなっても行動傾向が持続しあまり変化はみられないと解釈された。さらに,年齢水準問の生きがい満足度得点の差について有意な違いがみられたのは積極的満足度だけで,84歳まではそれほどの違いがなく,85歳以上になってようやく低くなる傾向がみられた。知的水準の年齢段階差については,これまでの研究結果と同じく高齢化に伴って順次低下していくことがわかった。この他,基本健康度の調査として血圧,脂質,貧血の測定を行い,また,ソーシャル・サポート得点について年齢段階別に比較を行ったが有意な差はなかった。生きがい満足度と日常生活行動とは極めて強い関連があり,日常行動の積極さと多さが生きがい満足度を高めていると解釈できた。さらに,生きがい満足度と知的水準とは強い関連があり,生きがい満足度が高い者ほど高い知的水準を保持しており,これまで10年間にわたって得た研究結果と共通する傾向であった。また,生きがい満足度が高い者ほど高いソーシャル・サポートを受けていることがわかった。知的水準を上位群,中位群,下位群の3群に分けて違いを検討した。知的水準と日常生活行動とは強い関連があり,日常行動の積極さと多さが知的水準を高く保つと解釈できた。さらに,知的水準と3つの生きがい満足度測度とは有意な関係を示し,知的水準が高い人ほど生きがい満足度も高いことがわかった。知的水準の違いとソーシャル・サポート得点との関係は,知的水準が高くなるにつれてソーシャル・サポート得点が高くなる傾向を示していた。次に,全体的関係の程度を確かめるために,調査された変数間の相関値を検討した。その結果,かなひろいテスト得点,日常生活行動の5つの領域,生きがい満足度,積極満足度,安定満足度,ソーシャル・サポート得点問に有意な相互相関がみられた。以上のことから,日常生活において,積極的で趣味や楽しみが多く行動的な人ほど心理的に安定し,生きがい満足も高くなり,そのことが他者からのサポートを受けることも多く,結果として,知的水準を高く保つことができるものと解釈された。
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